約 6,337,645 件
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/37.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS第1話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第2話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第3話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第4話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第5話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第6話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第7話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第8話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第9話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第10話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第11話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第12話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第13話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第14話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第15話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第16話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第17話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第18話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第19話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第20話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第21話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第22話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第23話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第24話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第25話 魔法少女リリカルなのはStrikerS第26話
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3314.html
マクロスなのは 第6話『蒼天の魔弾』←この前の話 『マクロスなのは』第7話「計画」 アルトはこちらと同じ様にガウォークで並進するバルキリーに呼び掛ける。 「なぜ生きてるんだミシェル!? 魔法でも死者甦生は無理なはずだぞ!?」 『勝手に殺すな。それともなにか? 死んだ方が良かったのか?』 「いや・・・・・・生きててよかった」 『・・・・・・へぇ、見ないうちに素直になったなアルト姫』 「姫はやめろ!もう一度ここで戦死したいか!?」 アルトとミシェルと呼ばれる謎のパイロットの激しい口撃の応酬。後部座席でそれを聞くなのはは何がなんだかわからない。 「えっと・・・・・・アルトくん、どうなってるの? お友達?」 アルトはこちらを振り返ると怒鳴る。 「こんなやつ友達なもんか!」 すると聞こえたミシェルが言い返す。 『ほう、言うじゃないか。だが女の子に怒鳴るとは天下のアルト姫も地に落ちたようだな』 それに怒鳴り返すアルト。スカした言動で翻弄するミシェル。口喧嘩はさらに5分にもおよんだが、一触即発という雰囲気どころかお互いそれを楽しんでいるように感じられた。そう思うと自然と笑みがこぼれた。 (本当に仲がいいんだ) 自然と思ってしまった思考はどうやら念話に乗ってしまったらしい。2人は同時に否定する。その息の合ったユニゾンに今度は笑い声を隠すことができなかった。 (*) なのはの仲裁によってようやく2人は矛を収めたが、アルトはやっと重要な事に気づいた。 「そういえばお前、その機体どうした?」 ミシェルはしばし沈黙を守ると一言。 『メイド・イン・ミッドチルダだ』 「は!?」 「え!?」 『・・・・・・詳しいことは技研に着いて、田所所長から聞いたほうがいいだろう』 ミシェルのVF-0はガウォークからファイターに可変し旋回していく。アルトはなのはの了解を得ると、ミシェルを追った。 (*) 10分ほど巡航飛行を続けると六課を飛び越し、クラナガン湾に出た。VF-0が降りる大地は六課とは対岸の半島に存在した。下界には湾内に浮かぶ大きな人工島が見える。 『こちらは時空管理局地上部隊、技術開発研究所のテストパイロット、ミハエル・ブラン一等空尉。管制塔、着陸許可願います』 『・・・・・・確認しました。第7滑走路はクリア。着陸OKです』 続いてVF-0の後についてきたVF-25にも通信が入る。 『管制塔からフロンティア1』 「こちらフロンティア1、どうぞ」 『路面が通常のアスファルトのため、ファイター形態にて滑走路に進入、ミハエル機に続いて着陸してください』 「フロンティア1、了解」 コールサインで呼んでいるのは、近くを飛ぶ民間機の多いせいだ。 この滑走路は管理局の施設ではなく、国営のミッドチルダ国際空港だ。レーダーを見ると、100を超える民間の旅客機、次元航行船が写っている。 ちなみに通常のアスファルトやコンクリートの地面だと、ガウォークのエンジン噴射の熱に耐えられずひび割れが発生する。技研にそのまま帰れないのはそのためだ。 「・・・・・・珍しいのか?」 なのはがさっきからキョロキョロしているので聞いてみる。それになのはは目を輝かしながら応えた。 「うん。空戦魔導士でも危ないって緊急時以外近づかせてくれなかったの。・・・・・・こんなに飛行機が飛んでるんだ・・・・・・ほら!あんな大きい飛行機の操縦なんて楽しいんだろうなぁ~」 彼女はそう言って着地のアプローチに入ったVTOLジェット旅客機を指差す。 オートパイロットの見張り役と酷評される民間機のパイロットからすれば、Sランクで自由に空を飛べるなのはの方がよっぽど羨ましいに違いない。だが人間、自分に無いものが羨ましくなるものだ。 その後もひっきりなしに離着陸する民間機に混じって無事着陸。そのままVF-0とVF-25は格納庫へ運ばれ、アルト達はリニアレールで技研に向かった。 その道中なぜミシェルは生きているのか?また、なぜこの世界にいるのか?が彼の口から明かされた。 彼の話によると宇宙に放り出されてすぐ、EXギアの緊急装置を作動させて体を風船のようなもので包み、凍死と窒息の危機から身を守ったらしい。 そして今度は怪我から意識を失いかけていたミシェルだが、そこにアイランド3から誤作動で切り離された脱出挺が偶然通りかかり救助されたという。 その後避難していたフロンティア市民を乗せたまま漂流していた脱出挺はアイランド3から発生した謎の爆発に呑み込まれフォールドしたらしい。―――――その爆発がバジュラ殲滅に使ったフォールド爆弾『リトル・ガール』であることは言うまでもない。―――――脱出挺は奇跡的にフォールド空間へと振り落とされたらしく、乗員達が気づいた時にはこの世界に来ていたという。 「じゃあこの世界には俺たちよりも早く来たのか?」 向かい合わせのミシェルは頷くと話を続ける。 「あぁ、もう8カ月前になるな。そういえばその様子だとバジュラの野郎共には勝ったみたいだな。フロンティアはどうだ?・・・・・・クランはどうしてる?」 (やはりこの男はクランを気にかけているんだな) そういえばなどと言っているが、ずっと気にしていたのは分かった。おそらく彼女にもしものことがあったら・・・・・・と聞くのが怖かったのだろう。 「安心しろ。あれからバジュラとの共存の道が開けたんだ。だから両方とも無事。今ではバジュラの母星に移民した。もう1年になる」 「そうか・・・・・・よかった」 ミシェルはそう胸を撫で下ろした。 ちなみにそれぞれの客観時間がずれていることはフォールド航法を使うとよくある事なので、まったく気にならなかった。 「・・・・・・でだ、なんで知らせてくれなかったんだ?」 「技研の作業がぎっちぎちでな。しかしおまえがランカちゃんと来た時には驚いた。暴動に歌か。まったく昔の自分を見るようだったぜ。しかも俺達が必死こいて守ったオーバーテクノロジーも全部暴露しやがって」 「あ、いや・・・・・・すまない・・・・・・」 機密を漏らすということに罪悪感があったので素直にあやまった。そんな2人の会話になのはが仲裁しながら入り込んできた。 「まぁミハエル君、あんまりアルトくんを責めないであげて。それで他のフロンティア船団から来た人達はどうなったの?」 「なのはちゃん、親しい友人はみんな俺のことをミシェルって呼ぶんだ。だからミシェルって呼んでいいよ」 彼のウィンクに頬を赤らめるなのは。 ミッドチルダとフロンティアでは客観時間がずれている。そのためまだミシェルは17~18歳のはずだ。一方なのはは資料によれば19歳。年上だ。つまり年上しか狙わないミシェルの射程内ということになる。 しかしクランとのことや、なのはが戦闘職であることから外れるかもしれないが、この8カ月が彼を変えたかもしれない。 (こいつ(空とベットの撃墜王)に狙われてからでは遅い・・・・・・) アルトは一応予防線を張ることにした。なのはに念話で呼びかける。 『(なのは、こいつはやめたほうがいいぞ)』 『(? どうして?)』 『(実はそいつ・・・・・・ゲイなんだ)』 「ふぇ!?」 なのははおどろきのあまり素っとんきょうな声をあげた。 「どうしたの? なのはちゃん?」 ミシェルは顔を真っ赤にしたなのはに問う。 「ううん、なんでもない・・・・・・」 「ん? そっか。とりあえず他の人達だよね。民間人は普通にミッドチルダで暮らしてるけど、元新・統合軍の軍人さんはみんなを守りたいって残らず時空管理局の地上部隊に入局してるよ」 不思議なことに、民間人含めてみんながみんな魔力資質があってね。と付け加える。 「ミシェル君も?」 「ああ。大抵クラスBだったんだが、俺はAA+だった」 「へぇ、そっちの世界に魔法がないのが残念なぐらいだね」 なのはが言った辺りでリニアレールのアナウンスが、技研に最も近い駅に到着したことを知らせた。 (*) その後研究員の運転する車で技研に戻ると、彼らを出迎えたのは田所だった。アルトは彼に問いただしたいことが山ほどあったが、田所のたった一言にその気力を挫かれた。 「おかえり」 アルトだからわかる演技でない心からの言葉。父の姿が重なったアルトは少し戸惑いながら 「ただいま」 と返した。 (*) 帰還直後ミシェルは 「用事がある」 とか言って田所と研究員達に連れていかれたが、アルトとなのはは応接室に通された。 しかし入れる部屋を間違えたのか先客がいたようだった。 「レ、レジアス中将!?」 なのはは入ると同時にそのおじさんに敬礼する。 「ん? あぁ、高町空尉。君も来ていたか。第256陸士部隊から君達六課の活躍は聞いている。地上部隊の窮地を救ってくれてありがとう」 もし予算を増やしたのに陸士部隊が敗北してロストロギアを奪われていれば、地上部隊の存続すら危うくなる。リニアレール攻防戦はそういう深い意味のある戦いだった。 「いえ、私達は任務を忠実に実行しただけです」 「それを尊いと言うんだと、私は思う」 彼はそう言ってなのはの肩を叩き、こちらに向き直る。 「早乙女アルト君、君とランカ君には特に感謝しなければならない。君達と我々は元々関係のない間柄なのに、以前の襲撃事件や今回のことなど助けてくれてありがとう」 アルトはその言葉に、以前シグナムに言った事と同じセリフを返す。 「いや、俺たちは偶然あそこにいて、偶然それに対応できる装備があっただけだ」 「とんでもない!我々が助かったことは事実だよ。精神面でも〝技術面〟でも」 技術が各種オーバーテクノロジーを示していることは明白だったが、そこを強調するところはタヌキだ。こうしてこちらの反応を試しているのだろう。 すでにアルトは彼がペルソナ(仮面)をかぶっていることを見抜いていた。しかし、以前のフロンティア臨時大統領、三島レオンのような野心や悪意は感じられない。 彼にあるのははやてと同じような〝守りたい〟という強い思いだけだ。 おそらく彼のような立場になると否が応でもペルソナを・・・・・・権謀術数にまみれた権力の世界を渡るために、被らなければならないのだろう。 「どういたしまして」 そう答えるのと田所が入室するのは同時だった。 邪魔かな?と思ったなのは達は出ていこうとするが、レジアスに呼び止められる。 「丁度いい。君達にも関係ある話だから聞いていきなさい」 そう言うレジアスは空いたソファーの席に俺たちを誘導した。 (俺たちに関係あるってどんな話だ?) なのはのほうも見当が付かないようで、同じようにこちらを見てきた。俺は肩をすくめてそれに応えると、準備する田所所長に視線を投げた。 3人の視線に晒されながら田所は空中に大型のホロディスプレイを出すと、資料を手に説明を始める。 画面には大きく『時空管理局 地上部隊 試作航空中隊についての中間報告』とある。 「今回完成した試作1号機『フェニックス』の実戦テストは無事終了。量産機としてVF-1『バルキリー』の第1次生産ラインの整備が進んでします。現在は第25未確認世界より漂流してきたL.A.I社研究員より提供されたVFシリーズの設計図から選定したVF-11『サンダーボルト』の解析が完了。試作2号機として試作を開始しました。試作機が完成し、テストも順調ならば1ヶ月以内に同機種の生産ラインが整備できる予定です。またパイロットの養成は彼らを教官に順調に進んでおり、1週間以内にVF-1の試験小隊が組める予定です」 ディスプレイに写るVFシリーズの図面は紛う事なきアルトの第25未確認世界のものだ。しかし随所にVF-25の最新技術、またはミッドチルダの技術がフィードバックされている。 2機種のエンジンが初期型の熱核タービンから最新の熱核バーストエンジン(ステージⅡ熱核タービン。AVF型では初期型の2倍。VF-25の最新型では約4倍の推進力を誇る)に換装され、装甲が第3世代型の『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』になっていた。 また、推進剤のタンクが本来入るべき場所に小さなリアクターが居座っていた。このリアクターは改修したVF-25の装備と同じようだ。 VFシリーズの装備群は、基本的に反応炉(熱核タービン)のエネルギーを流用する。しかしそれではまるっきり質量兵器と同じなため、このリアクターが搭載されたのだ。 これは名称を『Mk.5 MM(マイクロ・マジカル)リアクター(小型魔力炉)』といい、ミッドチルダにはすでに30年以上前から製作、量産する技術力があった。しかし魔導士が携帯するには大きすぎ、車両に搭載すると質量兵器に見られかねない。・・・・・・いや、まずこれほどの出力が通常個人レベルの陸戦では必要なかった。 かといって基地や艦船の防衛システムに使うには逆にひ弱で、正規の艦船用や基地用の大型魔力炉に比べると受注量は少なかった。 そこに目を着けたのが『ちびダヌキ』の異名を持つ八神はやてだった。 彼女は比較的安価でVF-25に搭載するには十分小型なこの魔力炉を搭載させ、兵装と推進系を改装したのだ。 この魔力炉は『疑似リンカーコア』とも呼ばれており「個人の魔力を最大500倍まで増幅する」というのが本当の機能だ。しかし本物のリンカーコアがないと、使用はおろか起動すら出来ない。 だから誰でも、そしてボタンを押せば使えるような兵器ではない。 「これは魔法そのものである」 というのが六課側の主張であり、報道機関の協力もあって世論からは認められている。 しかし六課自身もこれは質量兵器であり、ランカを守るための希少な戦力であるべきだと考えていた。 「田所所長・・・・・・まさか本気で量産したりしないよな?」 アルトの問いに田所の表情が陰る。彼は正直なのだ。 しかし、今まで『管理局は質量兵器を使わない』と信じていた。または、信じようとしていたなのはやアルトには衝撃だった。 「田所所長、君は答えなくていい。私から説明しよう」 レジアスは立ち上がると、自らの端末を操作してディスプレイに投影する。 〝56回〟 上の見出しによるとミッドチルダでのガジェットの出現回数のようだ。 確か六課はこの回数の半分ぐらい出撃しているはずだ。 六課は新人の研修ばかりやっているように思われがちだが、今回のリニアレール攻防戦以外にも要請を受けてスクランブルしたことは多い。 目立たないのはほとんどが空戦であり、新人達が実戦に臨むことがなかったためだ。 「現在、六課の善戦で地上の平和が守られているといっても過言ではない。しかし、君達1部隊に地上の命運を託すわけにもいかないのだ。そこで突破口となるのがアルト君、君のバルキリーだ」 多少芝居がかったようすで大仰にこちらを指差す。 「俺の?」 「そうだ。バルキリーは改良すれば、魔導兵器として管理局でも採用できるのだ。君が以前襲撃事件の時バルキリーを使い、その業績から世論はそれを許した」 報道機関も珍しく比較的ソフトに表現しており、ミッドチルダ市民はVF-25が上空を飛んでいても不安を覚えず、子供達が手を振っているほどに受け入れられていた。 ちなみに早くも普及の始まったPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)も今では魔法として人々にとらえられており、格闘でもPPBを併用すれば質量兵器を使った攻撃とは見なされない。(VF-25では反応炉で発生させたものであるが、そんなことはもちろん伏せられている) 「しかし、質量兵器廃絶の理念に違反するすれすれではないでしょうか?」 なのはがつっこむが、レジアスは悲しい顔をして言う。 「そこまで追い詰められているのだよ、我々は」 『ピッ』という電子音とともにディスプレイの数字が変わる。 〝12人〟と。 「この数字は、ガジェットとの戦闘で戦死した数だ」 それを聞いた2人の顔が強ばり、田所は顔を伏せた。 「しかしそんな報道は―――――」 「君は住民にパニックを起こせ。と言うのかね?」 レジアスはそう言ってなのはの反論をねじ伏せた。どうやら厳重な報道管制が行われているようだ。 「戦死したのはほとんどBランク以下の者だ。」 列挙される殉死(戦死)者名簿。右端に書かれた魔導士ランクを見ると、確かにB,Cランクで固まっている。しかし1人だけAAランクの魔導士がいた。職種は空戦魔導士。部隊名は『第4空戦魔導士教導隊』。それはどこかで聞いた部隊名だった。 (確かなのはの―――――) 「え?うそ・・・・・・栞!?」 なのははそのAAランクの者の名を叫ぶ。 そう、確かその部隊はなのはの前任地だった。 レジアスはそんな彼女の驚きを予想していたようだ。彼はその宮島栞二等空尉のデータを呼び出す。 「彼女は管理局員の鏡だった」 レジアスはそう前置きをして話始める。 彼によれば教導隊はその日、海上で学生上がりの見習い空戦魔導士の訓練を行っていたそうだ。 しかしその時、部隊は大量のガジェットⅡ型の奇襲を受けた。教導隊は必死の防衛戦の末撃退は不可能と判断し、転送魔法による撤退を選択した。 だが敵の攻撃が激しく、学生を守りながらではとても逃げられなかったという。 「そんな時彼女は、全員を逃がすために囮になったんだ。おかげで新人含め部隊はほとんどが無事に帰還した。だが彼女だけは・・・・・・」 遺体は海上のためか発見されなかったらしい。しかし発見された彼女のデバイスのフライトレコーダーから彼女の死亡が確認されたという。 「彼女はフライトレコーダーに最期の遺言を残していた。それがこれだ」 レジアスは端末を操作してプレーヤーを起動し、再生した。 『みんな、無事に逃げたよね? 私はここまでみたいだけど、きっと仇をとってね。私は空からみんなを見守ってるから! ・・・・・・なのはちゃん知ってるよね?この前見た映画で私、「私も『空からみんなを見守ってる』って言ってみたいなぁ~」って言ってたこと。でもいざそうなってみると、あんまり感慨深くないんだね』 無理にでも明るく振舞おうとする声。きっとそうして恐怖に対抗しているのだろう。 敵に囲まれ後は座して死を待つのみ。その恐怖は想像するに難くなかった。 そしてその声に混じる爆音。それは彼女の後ろに迫る死神の足音のように響く。 『・・・・・・もう時間がないみたい。これを聞く人みんなにお願いします。絶対この機械達に私の無念を晴らさしてやってください―――――』 そこでプレーヤーが止まった。・・・・・・いや、まだ残っているがレジアスが止めたのだ。 シレンヤ氏 第7話 その2へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/569.html
目が覚めると、そこは見知らぬ世界だった。 魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 第一話 『悪魔』 闇の書事件。ロストロギア、『闇の書(夜天の魔導書)』を巡る事件から一年が経とうとしていた。事件の中心人物だった 少女、八神はやては今では自力で歩けるまでに回復し(もっとも、まだ激しい運動はタブーだが)、家族である魔導 書の騎士達も、管理局の保護観察を受けながらも彼女と平和な日々を送っていた。 そんなある日の夜。 「今日はすき焼きやぁ。ヴィーダもお腹すかしてるやろなぁ」 「そうですね。あ、そうだ。帰りに皆のアイスを買っていきましょう」 「ええなぁそれ」 はやてと彼女の守護騎士の一人であるシャマルはゆっくりと鳴海市内を歩いていた。シャマルもまだあまり速く歩け ないはやてに合わせて気持ちゆったり歩いている。荷物は二人で半分ずつ。全部持つと言うシャマルをはやてが説得 して、半分ずつにするのは何時ものことだった。 ふと、はやては空を見上げた。頬に当たった冷たい感触。雪だ。またふわふわと降りてくる。 「……雪やなぁ」 「……そうですね」 二人はしんしんと降る柔らかな雪をしばらく見つめ続けた。彼女達にとって、雪とは特別な意味を持つものだから。 「(リィンフォース……今どこにおるんやろなぁ)」 一年前に旅立っていった一人の家族のことを思い、はやては少しだけ微笑んだ。 刹那、夜空を白い光が掠めた。 「あれ?流れ星?」 はやてが言った。シャマルもつられてそれを追う。だがその光が輝いたのは一瞬。もう見えるはずも無かった。 「願いこと、しましたか?」 「そんな余裕、あらへんよ」 「ほないこか」はやてとシャマルは手を繋いでその場を後にした。 「(今の光、本当に流れ星やったやろか……)」 心中、はやては首を捻っていた。今の光は魔導師が飛行する時に残す魔力の残光にも見えたからだ。 闇の書事件から一年が過ぎようとしていた十二月一日。一人の青年が漂着しているのが発見されて市の病院に運ばれ、 その明朝に行方を眩ましてから一週間後のことだった。 砂漠に覆われた世界。かつて、フェイト・テスタロッサ(現フェイト・T・ハラウオン)とはやての守護騎士、シグナムが 激突したこの地で今、管理局の精鋭達は己らの知る存在を遥かに超えたモノと交戦していた。それは静かに、しかし 確実に彼らに死を運ぼうとしている。 「く、くそぉっ!」 彼らとて管理局の精鋭。その強い自負があった。故に彼らはここで判断を誤る。 逃げておけばよかったのだ。形振り構わずに。この中の誰一人として、それに敵うはずがなかった。 「消えろぉっ!」 一人の魔導師が破れかぶれに魔道杖を振るった。他の魔導師もそれを見て、何とか自分を奮い立たせて『ソレ』に 立ち向かった。同時に繰り出される砲撃魔法。青の光の爆発が『ソレ』を吹き飛ばした。 「なっ!?」 かに見えた。あれだけの砲撃を受けたというのに、『ソレ』は確かに自分の足で立っていたのだ。 「こんな……馬鹿なことが……」 恐怖を一気に通り越させられて、絶望の底辺。その巨体が、彼ら管理局魔導師の自信と意地、全てを砕いて捨てた。 それは確かに人の形をしていた。しかし人ではない。 まず大きさが違う。それはまるで大型の傀儡兵のよう。 そしてそれは仮面を被っているようだった。人でいう口の部分の輪郭が、まるで笑っているようで。しかしその 微笑みは優しげでない。この世全てを哂うような皮肉げな微笑。頭頂部からは角のように突起が生え出ていた。 胸には黒い水晶体。 全身を覆う黒と赤の斑なツートン。それはかつて、ある世界でこう呼ばれていた。 悪魔―『ダーク・メフィスト』と。 『下らん、これがお前達、魔導師とやらの力か』 地の底から響いてくるような低い声。戦う意志をすっかり失っていた局員達をさらに追い詰める。彼らに許されることは ただ震えることだけである。 『まあ良い。最初からお前達には期待などしていない。人間の身で、私に対抗し得るはずがないのだから』 ダーク・メフィストは腕を胸の前で交差させた。その両腕に集う紫紺の妖光。炸裂音を発しながら増してゆくその光を前に しても、優秀なはずの管理局員達は身動き一つ取れなかった。あまりにも大きな力の壁を前にして、心と身体が麻痺してし まっていた。やはり彼らに残された道はただ死を待つことのみ……― 『諦めるな』 世界に、希望の光が射した。 ここが何処なのか、分からない。自分に残されたこの力が何を意味するのか分からない。あの時、確かに感じた はずだ。自分からあの溢れる力が抜けていくのを。だというのに今、身体を満たしているのは失ったはずの光の力。 一体何故?何の為に?この力はあるというのだろう。それはまだ分からない。それでも……。 「この力が有る限り、俺は退かない」 姫矢准は、再びエボルトラスターを天に振り上げた。贖罪の戦いはもう終わったのかもしれない。それでもまだ 宿命が告げていた。戦い続けろと。砂塵舞う地に降り立ち、立ち上がる銀(しろがね)の巨人。眼前に立ち塞がるの はかつての強敵。それに向かって彼の戦士は立ち向かう。 ウルトラマンネクサス・アンファンス、降臨。 ED『英雄』 次回予告 傷付き、倒れるウルトラマン。 『所詮は光の残り滓。お前にはやはり、輝く力は残されていなかったということだ』 再び闇を彷徨う姫矢。 「堕ちて来いよ姫矢。闇は、悪くないぜ」 「俺はお前とは違う!」 そして管理局も強大な敵の対応に追われることとなる。 『黒い巨人、鳴海市上空に出現!』 「なのはさん!フェイトさん!急いで!」 三人の魔法少女VS闇の巨人。 『人の身で、私と戦おうというのか』 次回、魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 第二話『暗黒』 「スターライトぉ!」 「プラズマザンバーぁ!」 「ラグナロクっ!」 『ブレイカー!!!』 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/895.html
第6話「決意、そしてお引越しなの」 「じゃあ、メビウスからは何も連絡は……」 「はい……ウルトラサインもテレパシーも、一切ありません。」 地球から遠く離れた宇宙に存在する、M78星雲。 その中にある、地球よりも遥かに巨大な星―――光の国は、ウルトラマン達が住まう星である。 そんなウルトラマン達の中でも、優れた戦闘能力と、そして優しさを持つ戦士達がいた。 彼等はウルトラ兄弟と呼ばれ、宇宙の平和を守る宇宙警備隊の一員として、日夜戦っている。 そのウルトラ兄弟達に、今、未曾有の事態が起きた。 ウルトラ一族にとっては最大の宿敵の一人といえる、最大の悪魔―――ヤプール人が復活を果たした。 ヤプール人とは、異次元に存在する邪悪そのもの。 自らを、暗黒から生まれた闇の化身と豪語する悪魔である。 ヤプール人はこれまで、幾度となくウルトラ一族へと戦いを挑んできた。 ウルトラ兄弟達は、その都度何度も撃退したが……ヤプールは、何度も復活を果たしてきた。 彼等はヒトの負の心を好んでマイナスエネルギーに変えてエネルギー源としているため、その存在を完全に消し去る事は不可能なのだ。 ヒトがこの世から完全に消え失せれば、もしかすると可能かもしれないのだが、そんな馬鹿な話はありえない。 一時は、封印という形で決着をつけられたかのように思えたが……その封印も、悪しき侵略者に破られてしまった。 結局ウルトラ兄弟達は、ヤプールが復活する毎に打ち倒すという手段を取るしかなかった。 そしてつい先日、彼等はヤプールが潜む異次元へと乗り込み、決戦に臨み、ヤプールに打ち勝つことができたのだが…… ここで、予想外の事態が起こった。 ヤプールを倒した影響により、異次元世界は崩壊を迎えようとしたのだが……ヤプールがここで、最後の悪足掻きを見せた。 ウルトラ兄弟の末弟―――ウルトラマンメビウスを、道連れにしていったのだ。 メビウスはヤプールと共に崩壊に巻き込まれ、そして行方不明となった。 兄弟達は、様々な手段を使ってメビウスの捜索に当たっていたのだが、メビウスの行方は全く分からないままであった。 もしもメビウスがまだ生きているとするならば、可能性は一つしかない。 「やはり、崩壊の影響でどこか別の次元に落ちてしまったのか……」 「しかし……そうだとしたら、どうやってメビウスを探せばいいんですか?」 「メビウスから何か連絡があれば、どうにかならなくもないんだが……」 メビウスは、どこか別の異世界にいる可能性が高い。 それがどこか分からないのが、問題ではあるが……それさえ分かれば、救出に向かうことはできる。 ウルトラ兄弟の中には、異なる次元・異なる世界への転移能力を持つものもいるからだ。 今現在、メビウスを救う為に、光の国の者達は一丸となって動いている。 ウルトラ兄弟の長男にして宇宙警備隊の隊長であるゾフィーは、空を仰ぎ遥か彼方―――地球を眺め、弟のことを思う。 「メビウス……一体、どこに……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なのは、フェイト!!」 「ユーノくん、アルフさん……」 「二人とも、もう体は大丈夫なのかい? 大分酷いダメージだったけど……」 「うん、何とか。 私はしばらく、魔法は使えないみたいだけど……」 丁度その頃であった。 時空管理局の本局にて、なのは・フェイト・ユーノ・アルフの四人が久方ぶりの再会を果たしていた。 こうして直接顔を合わせるのは、彼等が出会う切欠となったPT事件以来である。 しかし、彼等の表情には喜び半分不安半分という所である。 その原因は、大きく分けて二つ。 一つ目は、言うまでもなくヴォルケンリッター達の存在にある。 そしてもう一つは、なのはとフェイトが受けたダメージの大きさにあった。 なのはは、自分でも攻撃を受けた時点で予想はしていたが……魔力の源であるリンカーコアが、異常なまでに縮小していた。 魔力を吸い取られてしまい、回復するまでの間、一時的に魔法を使えない状態にあったのだ。 フェイトも、なのは程ではないとはいえ、それなりのダメージを受けていた。 しかし何より……二人とも、自分のデバイスに大幅な破損を受けてしまっていたのが大きかった。 レイジングハートもバルディッシュも、再起不能な状況にまで追い込まれてしまっていたのだ。 自己修復作用だけでは間に合わないため、現在パーツの再交換作業の真っ只中にあった。 「レイジングハート……」 「ごめんね、バルディッシュ……私の力不足で……」 「……こういう言い方は何だが、これは二人のミスじゃないよ。」 「クロノ、エイミィ、リンディ提督……それに……」 「ミライさん……」 落ち込むなのは達へと、部屋に入ってきたクロノが声をかけた。 その傍らには、彼の相棒であるエイミィと、アースラ艦長のリンディ。 そして……ミライがいた。 クロノは、自分達が相手をしていた敵の魔法体系―――ベルカ式について、簡潔に説明を始めた。 今回なのは達が敗北したのは、彼女達の魔法体系―――ミッドチルダ式との相性の悪さが大きかった。 ベルカ式とはその昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系。 遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して、対人戦闘に特化した術式である。 ミッドチルダ式と違い、一対一における戦いを念頭に置いてあるものなのだ。 そしてその最大の特徴は、デバイスに組み込まれたカートリッジシステムと呼ばれる武装。 なのは達もその目でしかと見た、ヴォルケンリッター達が使っていたシステム。 儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得る。 術者とデバイスに負担はかかるものの、かなりの戦闘能力を得られる代物である。 「随分、物騒な代物なんだね……」 「ああ……多くの時限世界に普及している魔術の殆どは、ミッド式だからね。 御蔭で、解析に少しばかり時間を取られてしまったよ……」 「そうだったんだ……」 ベルカ式に関しての説明が終わり、皆は少しばかり考えた。 自分達の使っている魔法が、魔法の全てではない。 これから先、自分達の前に立ちふさがるのは、まだ見ぬ未知なる強敵。 かつてのPT事件と同様か、それともそれ以上の戦いになるかもしれない。 誰もが息を呑むが……その直後であった。 皆が、ベルカ式よりも最も疑問に思わねばならぬ事に気づいた。 戦闘の最中、突如として謎の変身を遂げたミライ―――ウルトラマンメビウスについてである。 当然ながら、視線はミライに集中することになる。 ミライも、ここで隠し事をするつもりはなかった。 丁度いい具合にメンバーも揃っている……ミライは、全ての事情を話し始めた。 「リンディさん達には、先にある程度の説明はさせてもらったけど、改めて全部話すよ。 僕の事……ウルトラマンの事について。」 ミライは、隠していた事情も含めた全てを話した。 自分は宇宙警備隊の一人であり、そしてウルトラ兄弟の一人である、ウルトラマンメビウスである事。 異次元に潜む悪魔―――ヤプールとの戦いの末に、次元の狭間に呑まれた事。 そして気がついたら、アースラに救助されていた事。 自分の正体を明かせば、周囲の者達にも危険が及ぶと判断し、正体を隠していた事。 先に説明を受けていたリンディ・クロノ・エイミィの三人は、二度目となるため流石に驚いてはいなかった。 一方なのは達四人はというと、当然ながら驚き、そして呆然としている。 別世界の人間というだけならば、まだ分かるが……その正体が宇宙人ときては、少々許容の範囲外であった。 そして、ウルトラマンという存在についてにも驚かされた。 宇宙警備隊という、時空管理局に匹敵するほどの大組織の一員として、ミライ達は動いている。 彼は、その中でも特に秀でた戦士であるウルトラ兄弟の一人―――中には、メビウスよりも強いウルトラマンはいるという。 早い話……ミライがとんでもない大物であった事に、皆驚いているのだ。 「えっと……一つだけ、質問してもいいですか?」 「いいけど、何かな?」 「話を聞いてて、少しだけ不思議だったんですけど……ウルトラマンは、どうして地球を守るんですか? 守らなくてもいいとかそういう話じゃなくて、色んな星がある中で、どうして地球を選んだんだって……」 なのはには、ミライの話の中で一つだけ、腑に落ちない点があった。 ウルトラ兄弟達になる為には、地球防衛の任に就く必要があるという。 そうして多くの事を学び、ウルトラ兄弟になるに相応しいまでの成長を遂げるというのだが…… 何故、彼等が防衛する星が地球なのか。 話を聞く限りでは他にも多くの星はある筈なのに、何故態々地球を選んだのか。 そんな彼女の疑問を聞くと、ミライは少しばかり瞳を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。 かつて、共に戦った大切な親友からも同じ質問をされた。 その時の事を思い出しながら……ミライは、なのはに答えた。 「僕達ウルトラマンも、元々はウルトラマンの力を持っていなかった。 皆と同じ……地球の人達と全く同じ、普通の人間だったんだ。」 「え……?」 「ある事故が切欠で、僕達はウルトラマンの力を手に入れた。 ……僕達は、地球の人達に自分達を重ねているんだ。 もう戻る事のできなくなった、あの頃の姿を……」 「だから、地球を……」 ウルトラマンが地球を守る理由。 それは、かつての自分達の姿を重ねているからであった。 更に、地球は多くの侵略者達から、特に狙われている星でもある。 だからウルトラマン達は、地球を守ろうと決めたのだ。 そうして人間達を守る戦いを続けていく内に、ウルトラマンとして何が大切なのかを知る事ができる。 それこそが、彼等の戦う理由であった。 だが、メビウスには……いや、これは全てのウルトラマンの思いだろう。 もっと重要な、戦う理由があった。 「それに……」 「それに?」 「僕達は、人間が好きですから。」 「……なるほど、ね。」 「勿論、人間だけじゃなくて……大切なもの全てを、守りたいと思っています。 困っている人がいるなら、その人を助けるためにウルトラマンの力はある。 僕はそう信じてます……だから、決めました。」 「え……決めたって?」 「ミライ君は、元の世界に戻る手立てがつくまでの間、私達に協力してくれるって言ってくれたんだ。」 ミライは、今回の事件に関して全面的に協力すると、リンディへと話を通していたのだ。 自分達を助けてくれた時空管理局の者達に、恩返しがしたいからと。 それに、もう一人のウルトラマン―――ダイナの事が気がかりであるからと。 前者だけでもミライにとっては十分な理由であり、加えて後者のそれもある。 ここで引き下がれというのが無理な話だ。 保護した民間人に戦闘をさせるというのは流石に気が引けたのか、最初のうちはリンディも遠慮していた。 しかし……ミライの積極的な申し出に、彼女も折れたのだ。 最も、局員ではないなのは、フェイト、ユーノ、アルフの四人が協力している時点で、今更な感はあるのだが…… メビウスの力は、確かに今後の戦いを考えると必要不可欠だろう。 闇の書側についているとされる謎のウルトラマンとの戦いには、最も彼が向いている。 なのはやフェイト達どころか、下手をすればアースラ最強の戦闘要員であるクロノさえも危ない程の強敵なのだから。 「さて……それじゃあ、フェイト。 そろそろ面接の時間だが……なのは、ミライさん。 二人も、僕に同行を願えないか?」 「……?」 「面接……うん、いいけど……」 なのはとミライの二人は、面接という言葉の意味がいまいちよく分かっていなかった。 聞く限りじゃフェイトの用事らしいのだが、それにどう自分達が関係するのだろうか。 不思議そうに、二人は顔を見合わせる。 そんな様子を見たクロノは、難しく考える必要はないと言い、部屋を出て行った。 三人は、彼の後についていく。 「エイミィ、面接って?」 「うん、フェイトちゃんの保護観察の事についてだよ。 保護観察官のグレアム提督と、まあちょっとしたお話。 なのはちゃんはフェイトちゃんの友人って事で呼ばれたんだと思うけど…… ミライ君は、まあ色々と大変な事情が重なってるからね。 多分、そこら辺の事に関してじゃないかな?」 「へぇ~……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「クロノ、久しぶりだな。」 「ご無沙汰しています、グレアム提督。」 そしてその頃。 クロノの案内によって、時空管理局顧問官―――ギル=グレアム提督の部屋に三人はついていた。 三人は椅子に座り、グレアムの言葉を待つ。 何処となく緊張している様子の彼等を見て、グレアムは少しばかり苦笑した。 その後、本題に入るべく、手元の資料を見ながら三人へと話しかける。 「フェイト君、だったね。 保護観察官といっても、まあ形だけだよ。 大した事を話すわけじゃないから、安心していい。 リンディ提督から、先の事件や、君の人柄についても聞かされたしね……君は、とても優しい子だと。」 「……ありがとうございます。」 「さて、次は……んん? へぇ……なのは君は日本人なんだな。 懐かしいなぁ、日本の風景は……」 「……ふぇ?」 「はは……実はね、私は君と同じ世界の出身なんだ。 私はイギリス人だ。」 「ええ!!そうなんですか?!」 「あの世界の人間の殆どは、魔力を持たない。 けれど希にいるんだよ、君や私のように、高い魔力資質を持つ者が。」 まさか時空管理局に、自分と同じ世界の出身人物がいるとは、思ってもみなかった。 驚き思わずなのはは声を上げてしまう。 するとそんな様子を見たグレアムは、彼女が予想通りのリアクションをしてくれたのを見て、静かに微笑んだ。 その後、彼は己の身の上話を話し始めた。 「おやおや……魔法との出会い方まで、私とそっくりだ。 私は、助けたのは管理局の局員だったんだがね。 それを機に、こうして時空管理局の職務についたわけだが……もう、50年以上前の話だよ。」 「へぇ~……」 「フェイト君、君はなのは君の友達なんだね?」 「はい。」 「約束して欲しいことはひとつだけだ。 友達や自分を信頼してくれる人のことは、決して裏切ってはいけない。 それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しないことを約束するよ……できるかね?」 「はい、必ず……!!」 「うん……いい返事だ。」 フェイトの力強い返答を聞き、グレアムは安堵の笑みを浮かべた。 その瞳に、一切の迷いはない。 友達の為、大切な人の為に活動できる、強い意志が感じられる……この子はきっと大丈夫だ。 これで、片付けるべき最初の問題は片付けた。 残るは……来訪者、ウルトラマンについて。 「ミライ君だったね……君の話をリンディ提督達から聞かされた時は、本当に驚いたよ。 魔法の力も、君からしたら十分非常識ではあるのだろうが……今の私は、それと同じ気分だね。」 「確かに……僕も最初に皆さんの話を聞いた時は、少し驚きましたよ。」 「はは……君もクロノに呼んでもらったのは、君がいた世界に関してなんだ。 君がいた世界の捜索なんだが、実は私の担当になりそうなんでね。 事情とかは既に聞いているから、改めて君から聞く必要はないが……そういう訳で、挨拶をしておきたかったんだ。」 「そうだったんですか……グレアムさん、よろしくお願いします!!」 「こちらこそ、よろしくだよ。 それで、君の能力に関してなんだが……仲間の人達と連絡を取る手段はないのかな?」 「テレパシーは試してみたんですけど、通じませんでした。 一応、他にももう一つだけ方法があるにはあるのですが……それは、地球に着き次第試してみたいと思います。 ウルトラマンに変身した状態じゃないと、使える力じゃないですからね。」 「うん、分かった。 それと、もう一つ質問するが……気になる事があってね。 君が一戦交えた、あのもう一人のウルトラマンについてなんだが……分かる事は何かないかな? どんな些細な事でもいいから、教えて欲しいんだ。 捜索の鍵になるかもしれないからね。」 「はい……けど、残念な事にはなるんですけど……」 「残念な事……?」 「僕とあのウルトラマン……ダイナとは、初対面なんです。 だから、お互いの事は何も分からないんです。」 「初対面……? ミライさんも会ったことがないウルトラマンさんなの?」 「うん……」 ミライとて、全てのウルトラマンを把握しているわけではない。 実際問題、かつて地上に降り立ったハンターナイトツルギ―――ウルトラマンヒカリの事は知らないでいた。 それに、光の国以外にもウルトラマンは存在している。 獅子座L77星生まれであるウルトラマンレオとアストラがその筆頭である。 この二人のみならず、ジョーニアス、ゼアス……彼等の様な他星の者達も含めれば、数は相当なものになる。 いや、そもそも……それ以前にあのウルトラマンは、自分がいた世界のウルトラマンなのだろうか。 なのは達の世界にウルトラマンが存在していない以上、ダイナは必然的に別世界のウルトラマンということになる。 問題は、その別世界がはたして自分のいた世界と同じなのかどうかという事である。 異次元世界での戦いにおいて、次元の裂け目に落ちたのは自分とヤプールだけだった。 まさかダイナがヤプールな訳がないし、そもそもヤプールがあのダメージで生きているとは思えない。 そうなると……ダイナは、もしかしたら別の世界のウルトラマンなのかもしれない。 自分と同じで、何らかの方法でこの世界に来たウルトラマンなのかもしれないのだ。 これに関しては、本人から聞き出す以外……知る方法はないだろう。 「ただ、戦ってみて分かったんですが……ダイナからは、邪悪な意思は感じられなかったんです。」 「邪悪な意思が……?」 「僕は今までに二回、同じウルトラマン同士でのぶつかり合いを経験した事があります。 その内の一人は、憎しみに捕らわれた可哀想な人でしたが……あの人から感じたような、憎悪とかはないんです。 寧ろダイナは、レオ兄さんの様な……強い信念を持っているように感じられました。」 ミライが、ダイナとの戦いで感じた事。 それは、彼から邪気が感じられないという事実であった。 かつて彼は、ハンターナイトツルギとウルトラマンレオと、二人のウルトラマンと対峙した経験があった。 ツルギとのそれは、対決にまでは至らなかったものの、ミライにとっては忘れられない記憶であった。 目的の為ならば手段を選ばず、ただ復讐の為に力を振るうツルギから感じられたのは、圧倒的な憎悪だった。 ダイナからは、そんな憎悪の様な感情は一切感じられなかった。 寧ろ、ウルトラマンレオの持つ強い正義感に近いものが彼にはあったのだ。 レオがミライに戦いを挑んだのは、敵に破れたミライを鍛えなおす為であった。 強敵を打ち倒す為のヒントを、彼は戦いの中でミライへと授けたのである。 あの行動は、紛れもなく正義を貫く為のもの。 大切な故郷である地球を守り抜きたいという、強い想いによるものであった。 ダイナには、それがあった。 「そうか……クロノ、今回の事件に関しては……」 「はい、もう、お聞き及びかもしれませんが…… 先ほど、自分達がロストロギア闇の書の、捜索・捜査担当に決定しました。」 「分かった……ミライ君。 君はあのウルトラマンとは、この先間違いなく対峙することになる。 その時、君は彼を止められるかな?」 「……絶対とは言い切れません。 ですが、ダイナは話が通じない相手ではないような気がします。 だから何とかして彼の目的を聞き、それが悪いことでないのならば、僕は彼を助けたいと思います。 避けられる戦いは、避けたいですから。 でも、もしも彼に邪な目的があるなら、そうでなくとも彼が立ちはだかる道を選ぶなら……僕はダイナと戦います。 皆を守るために、ダイナを何としても止めてみせます。」 「そうか……いい目をしているね。 君ならば、きっと大丈夫だろう……分かった。 あのウルトラマンダイナに関しては、君が一番頼りになるだろう。 クロノ達と助け合って、最善の道を歩めるよう頑張ってくれ。」 「はい!!」 「私から、君達に話すことは以上だ。 ……クロノ、私の義理では無いかもしれんが、無理はするなよ。」 「大丈夫です……急事にこそ冷静さが最大の友。 提督の教えどおりです。」 「そうだな……」 「では、失礼します。」 四人はグレアムに一礼した後、退室していった。 理解のある人で、本当によかった。 ミライ達は、心からそう思っていた。 彼の心に答える為にもと、三人は精一杯の努力をする決意を固めるのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「はやてちゃん、お風呂の支度できましたよ。 ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいなさいね。」 「は~い。」 同時刻、海鳴市。 八神家では、何てことない平和な日常の光景が見られた。 風呂が沸いた為、はやてとヴィータ、シャマルが三人で風呂場へと向かう。 シグナムはソファーに座って新聞を読み、ザフィーラは横になって寛いでいる。 そしてアスカはというと、テレビでやってるクイズ番組に夢中になっていた。 『ヘキサゴン!!』 『主にオーストラリアに分布する、その葉がコアラの主食として知られるフトモモ科の植物は何でしょう?』 ピンポンッ!! 『はい、つるの押した。』 『よしきたぁっ……笹ッ!!』 ブーッ!! 『え、何でだよ!?』 『……あのなぁ、つるの!! それコアラじゃなくてパンダやんけ!!』 「やっべ……俺も同じ事考えちまってたよ。」 「おいおいおい……」 「はは……シグナムは、お風呂どうします?」 「私は今夜はいい……明日の朝にするよ。」 「へぇ、お風呂好きが珍しいじゃん……」 「たまにはそういう日もあるさ。」 「ほんなら、お先に~」 三人が風呂場へと入っていく。 その後、ザフィーラはシグナムへと振り返った。 彼女が何故風呂に入るのを拒んだのか、何となく理由が分かっていたからだ。 アスカも二人の様子を感じ取り、振り返る。 「今日の戦闘か?」 「聡いな……その通りだ。」 「もしかしてシグナムさん、どっか怪我を?」 シグナムは少しばかり衣服を捲り上げ、二人に下腹部を見せた。 その行動にアスカは一瞬顔を赤らめ、反対方向へと向いてしまう。 しかし、見たのが一瞬であったとはいえ、十分に確認する事は出来た。 彼女には確かに、黒い傷跡があったのだ。 それは、フェイトとの戦いによって着けられたものであった。 「お前の鎧を撃ち抜いたか……」 「澄んだ太刀筋だった……良い師に学んだのだろうな。 武器の差が無ければ、少々苦戦したかもしれん。」 「でも……きっと、大丈夫っすよ。 今日初めて戦ってるところは見たけど……シグナムさん、結構強そうに見えたし。」 「ふふ……それはありがたいな。 そういうお前こそ……互角の戦いぶりだったな。」 「はい……ウルトラマンメビウス。 あいつとは、また戦うことになるだろうけど……負けません。 次は、必ず……!!」 「ああ……我ら、ヴォルケンリッター。 騎士の誇りに賭けて……」 『おい……お前、アホやろ。』 「あ、つるの抜けた。 よかったぁ、ビリじゃなくて……何か俺、こいつに親近感感じるんだよなぁ。」 「……ビリとビリの一歩手前とじゃ、五十歩百歩じゃないか?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「親子って……リンディさんとフェイトちゃんが?」 「そう、まだ本決まりじゃないんだけどね。 養子縁組の話をしてるんだって……プレシア事件でフェイトちゃん天涯孤独になっちゃったし。 艦長の方から、「うちの子になる?」って。 フェイトちゃんもプレシアのこととかいろいろあるし……今は気持ちの整理がつくのを待ってる状態だね。」 場所は時空管理局本局へと戻る。 なのははエイミィから、フェイトがリンディから養子縁組の話を受けたことを聞かされた。 この話は、とてもいいことだとなのはは感じていた。 無論、フェイトの気持ちの整理などもあるから、まだ先の話にはなるのだろうが…… 彼女達が親子となるならば、きっと上手くいくに違いないとなのはは思っていた。 そしてそれは、エイミィやクロノ達にとっても同様である。 (親子、か……) 二人の話を聞いていたミライは、昔の事を思い出していた。 自分も以前に一度、養子にして欲しいといってある人物を訪ねた経験があった。 相手は、今のこの姿―――ヒビノミライとしての姿のモデルとなった人物の、父親である。 彼はミライと暮らすことは出来ないと、その申し出を拒否した。 しかし……ミライが進むべき道を、はっきりと示してくれた。 彼の協力がなければ、今の自分はなかった……そう思うと、やはり感謝すべきだろう。 「さて……皆、揃っているわね。」 噂をすればなんとやら。 丁度、フェイトとリンディの二人が部屋へとやってきた。 それを合図に、騒がしかった室内が一気に静かになる。 今この部屋には、アースラクルーの者達が勢揃いしていた。 今回の事件に関しての説明が、これから行われるのである。 「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア・闇の書の捜索、および魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。 ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります。 分轄は観測スタッフのアレックスとランディ。」 「はい!!」 「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同。」 「はい!!」 「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん、ミライさん、以上4組に別れて駐屯します。」 各々の役割分担について、リンディが説明し始めた。 地上におかれる司令部には、リンディ達五人が駐屯する事になる。 そして、その肝心の司令部の場所はというと…… 「ちなみに司令部は……なのはさんの保護をかねて、なのはさんのおうちのすぐ近所になりまーす♪」 「えっ……!!」 「……やったぁっ!!」 なのはとフェイトは顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。 その様子を見て、アースラクルー皆も笑顔を浮かべる。 今回の事件は、なのは達の世界が中心だからそこに司令部を置くのは当然のことではあるものの。 中々、リンディも粋な計らいをしてくれたものである。 早速引越しの準備ということで、皆が動き始めた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うわぁ……すっごい近所だぁ!!」 「ほんと?」 「うん、ほらあそこ!!」 翌日。 なのは達は、司令部―――高町家から凄く近い位置にあるマンションにて、引越し作業の最中であった。 なのはとフェイトの二人はベランダから、外の風景を眺めている。 ミライはエイミィやクロノ達と一緒に、荷物の運び込みをしていた。 するとエイミィは、ある事に気付いた。 ユーノとアルフの姿が、人間ではない……動物形態へと変化していたのだ。 「へぇ~、ユーノ君とアルフはこっちではその姿か。」 「新形態、子犬フォーム!!」 「なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でないと……」 ユーノはフォレットへと、アルフは子犬へとその姿を変えていた。 二人とも、正体を隠しておかなければならない事情があるために、動物形態を取っていたのである。 そこへとミライもやってきたわけだが……そんな二人の姿を、彼はじっと見つめていた。 「ミライさん、何か……?」 「いや……今凄く、二人に親近感が沸いちゃったから。 正体を隠す為に変身する……分かるよ、その気持ち。」 「あ~……そういえば、似たような身の上だったわよね、あたし達。」 「わぁ~!! ユーノ君、フェレットモードひさしぶり~!!」 「アルフも、ちっちゃい……」 「あはは……」 なのははユーノを、フェイトはアルフを抱きかかえた。 するとそんな時、クロノから二人の友達が来たと言われ、二人は玄関へと走っていった。 リンディも折角だからと、一緒についていく。 その後、なのは達はフェイトの歓迎会の為に、リンディは挨拶の為に、翠屋へと向かっていった。 「早速仲良しですね、フェイトちゃん達。」 「前々から、ビデオメールとかはやってたからね。 初対面って言うのとはちょっと違うし……あれ?」 「エイミィさん、どうしたんですか?」 「あはは……艦長ったら、忘れ物しちゃってるよ。 これ、フェイトちゃん達に見せてあげなきゃ……ミライ君、折角だし届けてもらっていいかな?」 「はい、いいですけど……これって?」 「フェイトちゃんにとっての、最高のプレゼントだよ。」 ミライはエイミィからある小包を受け取った。 その中身が何なのか、それを聞くとミライも笑みを浮かべた。 きっとフェイトは、喜んでくれるに違いないだろう。 駆け足で、ミライはフェイト達を追いかけていった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ユーノ君、久しぶり~♪」 「キュ~」 「う~ん……あんたのこと、どっかで見た覚えがあるような……」 「ク~……」 「にゃはは♪」 翠屋の前のオープン席で、なのはとフェイト達は、友人のアリサ=バニングスと月村すずかの二人と過ごしていた。 ユーノとアルフも混じって、楽しげに四人は会話をしていた。 すると、そんな最中だった。 なのはは、小包を持ってこちらに近づいてくる人物―――ミライの存在に気付いた。 「あれ……ミライさん?」 「あ、いたいた。 フェイトちゃん、これリンディさんからの贈り物だよ。」 「え、私に……?」 「なのは、この人は?」 「初めまして、僕はヒビノミライって言うんだ。 お仕事の都合で、しばらくの間フェイトちゃんの家でお世話になってるんだ。」 「へぇ、そうなんですか……」 「ミライさん、これって?」 「開けてごらん。」 ミライに促され、フェイトは小包を開けた。 すると、その中にあったのは、最高のプレゼントであった。 なのは達三人が通っている、聖祥小学校の制服であった。 これが意味する事は、一つしかない……彼女達は、たまらず声を上げた。 その後、フェイトは店内でなのはの両親へと挨拶をしているリンディの元へと走っていった。 なのは達三人も、その後に続く……その後姿を、ミライはしっかりと見守っていた。 (……世界が違っても、やっぱり同じだ。 僕は、あんな笑顔を守りたい……兄さん達には少し悪いけど。 問題が片付いて、元の世界に戻れるようになるまで……精一杯、頑張ろう。 皆と一緒に……!!) 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1709.html
「ん……?」 グレイがこの世界に現れてから二日が経った。 彼が目覚めたのはベッドの上。それも宿屋にあるような上等なものではなく、どちらかと言うと簡素なものだ。 しばらくグレイはその場で停止する。どうやら状況を飲み込んだ上で、これからの行動を考えているのだろう。 この状況になるまでに憶えている事は、エロールによってこの世界に飛ばされたこと。続いて燃え上がる建物の中での戦闘。それからの記憶は無い。 これがどういう事かを考え、戦闘後に建物から連れ出され、ここに運び込まれたのだと結論付けた。 あの場にいた中でそれができそうなのは、白服の女、高町なのはただ一人。あの後で誰かが来たのでなければ、なのはに連れ出されたのだろう。 ふと、近くに来ていた看護婦が気付き、話しかけてきた。 「あら、目が覚めたんですね」 そう言うと、看護婦がグレイへと歩み寄ってくる。対するグレイは、その看護婦に問い、看護婦もそれに答えた。 「ここはどこだ? 何故俺はここにいる」 「ここですか? ここは聖王医療院です。あなたはミッド臨海空港でモンスターと戦って、その後ここに運び込まれたんですよ」 実に簡潔な回答。おかげで先程の考えが正しかったと証明された。 さて、グレイの頭には現在、一つの単語が引っかかっていた。『ミッド臨海空港』という単語である。 ここで言うミッドとは、おそらく彼の目的地であるミッドチルダ。つまり到着時の状況はともかく、目的地には到達できたという事らしい。 と、ここで看護婦がグレイに一つ伝言を伝えてきた。 「ああ、そうそう。あなたが目を覚ましたら伝えるように言われていたことがあったんでした。 目が覚めて、もし動けるようになったら時空管理局本局に来てほしいって、高町教導官からの伝言です」 ……本局とは一体どこだ? Event No.02『高町なのは』 目覚めてから数日後、グレイが本局ロビーの椅子に座っている。受付の順番待ちである。 普段から腰に差している古刀は無い。どうやら管理局で預かっているようだ。 先日の伝言には、本局に来たときに返すとの旨もあった。だから刀を返してもらう意味でもこちらには来る必要があったのである。 ちなみに他の荷物は病院を出る際に返してもらっている。 と、そんなことを言っている間にグレイの番が来たようだ。受付カウンターまで移動し、用件を伝える。 「高町教導官という人物に呼ばれて来た。取り次いでくれ」 「高町教導官に……ですか? ただいま確認しますので、少々お待ちください」 そう言うと受付嬢は通信モニターを開き、なのはへと連絡を取る。 こう言っては悪いが、いきなり現れてエースオブエースとまで呼ばれるような有名人に呼ばれたといわれても信用するのは難しい。 待つこと数十秒、モニターの向こうになのはの姿が映った。 「あ、高町教導官。あの実は、教導官に呼ばれたっていう男の人が来ているんですが……」 『男の人? その人って、灰色の長い髪をしてませんでしたか?』 「え? あ、はい。確かにそうでしたけど……」 その言葉になのはがしばらく考える。対する受付嬢は反応の無くなったなのはに怪訝そうな表情だ。 (もしかして、空港の時のあの人じゃあ……) 「あの……高町教導官?」 『あ、すいません。じゃあ、その人に待合室で待ってるように言ってくれませんか?』 受付嬢の表情が変わった。本当になのはに呼ばれていたのがそんなに驚くような事なのだろうか? とにかく、すぐに了承して通信を切り、グレイにその旨を伝えた。 「遅い……」 十数分後の待合室。グレイが暇そうな表情でそこにいた。 近くの本棚から本を取り出して読もうとするも、マルディアスとは文字が違うために読めない。 かといって剣の練習もこんな狭いところではできないし、術の練習もまた然り。 それ故に暇潰しすらできずに椅子に座っているほかなかった。他にできる事があるとすれば集気法で回復速度を上げるくらいか。 と、待合室のドアが開く。そこから現れたのはグレイにとっても見覚えのある女性だった。もっとも今は服装も髪型も違っていたが。 「えっと……怪我の具合はどうですか?」 「見ての通りだ。動ける程度には回復している」 まずはその女性、なのはがグレイの具合を聞き、それに答えを返す。 もっとも、動ける程度に回復したら来るよう言われていたので、ここに来ている時点である程度想像はつくのだが。 それを聞き、なのはがほっとしたような表情を浮かべて礼を言う。 「そうだ、あの時はありがとうございました」 急に礼を言われ、頭に疑問符を浮かべるグレイ。どうやら例を言われる理由がサッパリらしい。 どういうことか分からないので、なのはに直接聞くことにしたよう。 「……? 何の事だ?」 「ほら、あの時命がけでモンスターと戦ってたじゃないですか」 「その事か……あそこを出るのにあれが邪魔だっただけだ。感謝されるいわれは無い。 それより、俺を呼び出して何の用だ、高町教導官?」 グレイがそう聞くと、なのはの表情が変わる。今までの優しい顔から多少厳しい顔に。 「一つ、あなたにとって重要な話をするために呼びました」 話は空港火災の日まで遡る。 「なのはちゃん、ちょっと話があるんやけど」 「どうしたの?」 空港火災の日、そこで指揮を執っていた茶の短髪の女性『八神はやて』がなのはを呼び止めた。 表情からすると、何か真面目な話題なのだろう。いつになく真剣な顔である。 「まず、これを見てくれへん?」 そう言ってはやてが出したのは、空港内で確認された何かの反応のデータが映ったモニター。 それは人間だったりモンスターだったり、あるいは炎だったり色々である。 少しずつ時間を進めるような形でデータを進め、そしてある所で一時停止をかける。 「……ここや」 はやてが指差した箇所。その箇所には一秒前まで何の反応も無かった。一秒前までは。 だが、そこに突如人間一人分の反応が現れた。同じように転移の反応も同時に。 これが何を意味するか、理解に時間はかからない。 「え? これって、もしかして……」 「せや。転移魔法かそれとも次元漂流者かは分からへんけど、この時間に誰かがここに転移して来てるって事や」 そのまま再生ボタンを押し、その反応を追う。その反応はどうやら出口を探しながら移動しているようだ。 移動した軌道上のモンスターの反応は少しずつ減っていっている。その反応の主が倒したのだろうか? そしてある程度進んだ時点で再び一時停止。 「そして、この反応がなのはちゃんや」 そう言いながら、その反応の近くにある別の反応を指差す。どうやらこれがなのはの反応らしい。 近くには子供一人分の反応と、大物モンスターの反応もある。 「はやてちゃん、これ……」 なのははすぐに感づいたようだ。その反応の主の正体に。 そう言ったなのはに対し、はやても頷いて返した。 「これは多分、なのはちゃんが助けた灰色の髪の人の反応やろな」 そして、その詳細や目的を確かめるためになのはがグレイを呼び出し、今に至るという訳である。 「えっと……」 そういえばなのははグレイの名を知らない。そのため少し言いよどむ。 それを察したグレイが、自分の名を名乗った。 「まだ名乗っていなかったな。俺の名はグレイ」 「それじゃあ、グレイさん……ここは、あなたがいた世界ではありません」 この後の反応はなのはにも予想はできている。おそらく驚くか、あるいは現実を受け入れるのに多少考えるかの二択。 今までの次元漂流者の場合は、ほぼ全てがそのどちらかだったと、データで見たことがあったし、今まで見てきたのも大抵そうだったからだ。 だが、グレイの反応はそのどちらでもなかった。 「知っている。ミッドチルダだろう?」 その事に逆になのはが驚いた。 ここが異世界だと知っている上で、それで猶ここにいる。それはどういうことか。 いくつか思い当たる可能性はあるが、直接聞いたほうが早い。もしかしたら犯罪目的で違法に転移を行った可能性もある。 表情を若干厳しいものに変え、その疑問を口に出した。 「それはどういう事なんですか? 場合によっては、あなたを拘束しなければいけなくなるかもしれません」 これはどうやら、グレイがエロールから聞かされていた真相を話す必要があるようだ。というより、そうしないと面倒になりそうである。 意を決し、その真相を話した。 「――――俺が聞かされているのは、それで全部だ」 その話は、なのはにとっては信じがたい事であった。 何せ異世界の邪神が復活し始め、完全な復活のための力を蓄えるためにミッドチルダに来ているなどと聞かされても、どう反応すればいいのか分からない。 だが、グレイの目は嘘をついている目ではない。おそらくは真実なのだろう。 「じゃあ、一人でそのサルーインと戦っているんですか?」 相手が神だというのなら、一人で戦うのは無謀。なのに一人でいる……という事は、まさか一人で戦っているのだろうか。 なのははそう思い、グレイへと尋ねる。そして返ってきたのは否定だった。 「いや、仲間があと四人いる。この世界に飛ばされる時に散り散りになったようだがな。 ……そうだ、時空管理局……だったか? お前達の方で同じように見つけてはいないのか?」 飛ばされる時に散り散りになった四人の仲間。それがこの世界に来ているのならば、管理局の方で見つけているはず。 その事に一縷の希望をかけて同じように質問を返すが、なのはから返ってきたのは否定。 「……残念ですけど、あの日に転移してきたのはグレイさんだけでした」 「そうか……分かった」 やはり落胆しているのだろうか、グレイは声のトーンを幾分落として返す。 そうして次の瞬間には、席を立った。 「仲間を探す時間は無い。俺はサルーインを探しに行く」 それはあまりにもいきなりな事。そのせいでなのはは面食らい、のけぞる。 そのまま椅子ごと後ろに倒れるのを何とか踏みとどまり、何とかグレイを引き止めようとした。 あても仲間もないのに出発するという自殺行為を止めたいという一心で。 「待ってください! 出発するって言っても、あてはあるんですか?」 沈黙。 やはりあては無かったらしい。 「それに、相手は神なんですよね? 一人で戦って勝てる相手なんですか?」 さらに沈黙。 「あ、これは絶対無茶だ」という思考が頭を支配しているのだろう。だからといって他の手など思いつかない。 そういう事を考えていたグレイに対し、なのはがとある提案を持ちかけようとした。 「……グレイさん、管理局に協力する気は『なのはさん!』 が、急にオペレーターからの通信が入り、中断せざるを得なくなった。 「どうしたんですか?」 『例の海賊たちです! 次元航行艦が一隻襲われました!』 海賊? この世界にも海賊がいるのだろうか。 そのような疑問を浮かべるグレイを尻目に、通信で二言三言話したなのはが椅子から立ち上がる。 そしてグレイへと向け、謝罪の言葉を口にして部屋を飛び出した。 「ごめんなさい、グレイさん! 急ぎの用ができました! 後で続きを話すので、ここで待っててください!」 部屋に残されたグレイは、一人考えていた。 会話の内容からすると、その急ぎの用とは海賊退治だろう。 ならばある程度役に立つことはできるだろうし、何より待たされるのは御免だ。 そして結論……なのはに同行し、手を貸す。話の続きは移動中でも可能だろう。 その結論を出したグレイは、荷物袋から予備として持っていた武器『アイスソード』を取り出し、それを背に負って駆け出した。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/312.html
「それでは、フェイトちゃんの嘱託魔導師試験合格を記念して・・・」 「乾杯!」 アースラ艦内では、本局で試験を終えたフェイトのささやかな祝賀会が開かれていた。最低限のオペレーター以外は食堂に集合し、そ の主役のフェイトはその中で恥ずかしそうにしつつ、皆に持ち上げられていた。 「あ・・・ありがとございま」 「飲めー!歌えー!騒げー!デストローイ!!!」 「ハイ、ハイ、ハイハイハイハイリンディ提督のちょっといいトコみてみたーい!!!」 「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAHUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」 ささやかと言うには騒ぎ過ぎである。この艦の理性でもあったクロノ・ハラオウンがいないと言う事はこれほどまでに混沌を呼ぶのか。 「どーしたのー?フェイトちゃんの為の宴なのに~」 「リンディ提督、いえ、その・・・うわ、酒臭」 「ぶふ~ん、リンディママに全部話して御覧なさ~い、っていうかなのはちゃんでしょ~?」 「・・・はい」 その時、通信音が響き、ヘッドセットをつけっぱなしのエイミィが出た。 「はいはい~ああ、クロノ君?」 通信に応対するエイミィのさりげない言葉に戦慄が走り、全員が一瞬で凍りつく。 「うん、今フェイトちゃんの試験終わって・・・え?組織の人と連絡取りたい?わかった・・・最寄の電話ボックスと組織の人を繋ぐから」 「組織・・・?」 フェイトがリンディに怪訝な顔をして尋ねる。リンディは少々顔を引き締める。 「ええ・・・クロノとなのはちゃんには今、捜査の依頼が来ていたからそちらに向かってもらっていたの、後数時間で定期連絡が来るだろう し、その時に一度戻ってもらうように言っておきましょうか?」 「いえ・・・大丈夫です、ですが」 フェイトは真っ直ぐにリンディを見つめ、言った。 「私の方から会いにいきます」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ネアポリス市内のケーブルカー 車掌の笛の音が響く。 「ふぇぇー!!待ってぇ!待ってください!」 ドアが閉まりきる前に間一髪滑り込んだなのは、周りの乗客の注目の的となり、軽く誤魔化し笑い。 「危なかったぁ・・・」 「もう少し待ってくれてもいいよね・・・外国の交通はしんどいよ・・・」 席を探すなのはとユーノだがその最中とんでもない人物を見つけてしまった。 「あ」 「あ」 「あ」 先程空港で自分達を騙した人物・・・ジョルノ・ジョバーナと聞いた彼がボックス席にいた。 「えと・・・座ってもいいですか?」 「え?いや、ああ、どうぞ・・・」 ジョルノと向かい合って座るなのは、荷物は通路側に置く。なのはの横の座席にユーノがちょこんと座る。 「君は・・・いや、覚えてないのか・・・?」 「さっき、空港で会った、ジョルノ・ジョバーナさんですよね?」 「・・・ああ、そうだけど・・・」 「荷物・・・無いんですか・・・」 若干落胆した顔を見せるなのは、ジョルノはそこで話を切り出す。 「その・・・さ、こう言うのは何だけど君は危機感が足りないように思えるんだ、僕が泥棒まがいの事をしていると知っているならわざわざ近寄ったりしないと思うし、荷物だって抱えて持つほうが安全じゃないか?」 「じゃあ、また盗むんですか?」 流石のジョルノも頭痛を覚えた。 「出来るなら今やってみてください」 「(なのは・・・ちょっと怒ってる・・・?)」 「(うん)」 念話での会話すら・・・いや、念話だからこそなのはの静かな怒りが伝わってきた。元よりなのはは曲がった事が嫌いであった、如何なる 理由があっても、どんな境遇であろうと、犯罪に手を染める事を許せない、頑固で真っ直ぐな性格であった。 「出来るのなら今すぐに、盗んでみてください」 「・・・なら、遠慮無く」 ジョルノは即座になのはの荷物を掴む、だが、そこまでだった。 「これは!?重い・・・!!」 出発前 「はいこれ、なのはちゃんは女の子だから色々入れなきゃいけないでしょ?盗まれたりするかもしれないし、特性のスーツケースを用意したのよ」 「なのはちゃんの魔力波動を登録すれば他の人には開けるどころか持つ事すら出来ないようにしてみたよ、開けっ放しには注意してね」 「ありがとうございます、エイミィさん、リンディさん」 「提督・・・僕には・・・」 「それじゃあいってらっしゃい」 「・・・はい・・・」 ジョルノは自分の判断が間違っていた事に気付いた。 この少女は・・・危機感が無いのではない。 危機感を持って、あえてこの場所にいるのだ・・・と 「そうか、お前がジョルノ・ジョバーナか・・・」 そんな中、唐突に話しかけてくる男がいた。ケーブルカーの上の方からゆっくりと歩いてくる、おかっぱ頭の男。 「・・・あんた、誰です?」 「あ、すみません、今ちょっと取り込み中なのでお話なら後にして・・・」 なのはの言葉が途切れる、そばで見ていたユーノは男がなのはに向かって手を突き出したのを見た。 「すまないが・・・ちょっと話したい事があってね、少し時間をもらうよ」 男がすぐに手を離した、にも拘らずなのはは口を塞がれたかの様に呻いている。 「むぐッ!?むぐう!!?」 『ジッパー』がなのはの口に縫い付けられている所為で喋れないのだ。 「ば、馬鹿な!?こんな事が・・・」 「ジョルノ・ジョバーナ、率直に聞きたい・・・このような能力を使う者を見た事は無いか?」 「この様な・・・他にも能力を持つ者がッ!!」 殴った。振り下ろすような拳がジョルノの顔を打ち抜く。 「質問はいらない、ただ答えればいい・・・ここ数日ギャングの中で腕に心得のあるやつが連続して狙われている・・・俺の仲間もその襲撃にあっている、それはどうやら特異な能力を持った奴らが、何らかの目的で集中してここ一帯を狙っている・・・という事なんだ・・・」 「・・・」 「お前が空港周辺で稼いでいるのは知っている・・・だから、妙な奴が来たなら一番お前が詳しいと思ってな・・・」 「・・・魔術士連続襲撃事件か」 「(ゆ、ユーノ君!)」 男が声の方向に向き直る、しかしフェレットであるユーノを当然無視してなのはへと。 「今のは君の声かい?オカシイ、な?口を閉じているのに喋るなんて・・・それに何やら・・・連続襲撃事件と聞こえたが気の所為かい・・・?」 「(ごめんなのは・・・!!)」 「・・・」 なのはは何も言わずじっと堪えた。男はそれを恐怖で緊張していると感じ取ったのか、少し優しい口調で 「じゃあ一つだけ答えてくれないかな・・・?俺の言ったギャングが連続して狙われている事件について、君は心当たりがある・・・イエスかノーか首を動かして答えてくれ」 イエスと応じれば、当然更なる追及を受けるだろう。 ノーと応じれば・・・解放してはくれないだろう、解放してくれたとしても背後関係を洗われる。 どちらも選べない状況で逡巡するなのは、顔に一筋流れる汗を ベロンッ! 男が舐め取った。 「!!??!?!?」 「(こいつ・・・!!)」 「・・・」 「俺ね・・・人が嘘をついてるかどうか汗の味で解るんだ・・・この味は答える事に嘘・・・つまり答える事を隠したい・・・って事」 今度はなのはの肩口から二の腕の辺りまでがジッパーで大きく開かれた。 「ムゥー!!ムグゥー!!」 なのははすっかり気が動転していた。無理も無い、こんな身の危機では成人男性ですら悲鳴を上げて逃げ出す程だ。 「もう少し、話を聞く必要があるようだな・・・俺の名はブローノ・ブチャラティ・・・あまりにだんまりが続くようなら質問を『拷問』に変える必要があるぜ・・・」 「(なのは!!目くらましと解呪をセットでぶつける!!この場は脱出だ!)」 念話の声に理性を取り戻すと同時に、閃光弾の様な光が炸裂した。 「ぐぅっ!!?」 「うああッ!!」 ジョルノとブチャラティが目を押さえて仰け反る。 解呪によって身体のジッパーが無効化した事を確認すると、脱出経路を探そうと目を走らせた刹那、なのはに見えた。 『Protection』 窓の外で鉄槌を振りかぶる少女の姿が 「おらあああぁぁぁ!!!!」 窓ガラスを突き破って来た少女の鉄槌がなのはのプロテクションに食い込み・・・ぶち破った。 衝撃でそのまま反対側の壁まで吹っ飛ばされるなのは 「っかはっ・・・」 瞬時にバリアジャケットを展開していなかったら壁に叩きつけられて気絶していただろう・・・同時にレイジングハートを展開し、対峙するなのは。 「誰なの!?」 「命はもらわねぇ・・・おとなしくやられてくれ」 to be continue・・・ 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/896.html
昭和57年10月22日作戦決行二時間前 アースラ 「クロノ」 自分の名を呼ばれ振り返る 「フェイト―なんだい?」 フェイトは気まずそうにクロノの左腕を見る。前の作戦でAMFとプログラム破壊型の 電磁情報でBJの左袖が消失し一発のライフル弾が貫通したのであった 「シャマルの見立てじゃ骨にダメージは無いみたいだから一両日で回復するさ」 「―っ、でも私のせいで大事な情報が―」 反論しようとするフェイトに 「いいかい怪我は君のせいじゃない!僕のミスだ!――彼等は強い、甘く見ていると今度は誰か死ぬことになりかねない」 「ごめんなさい…」 「…いや、ちょっと言い過ぎた。大丈夫現場には出られないけどさっさと終わらせてみんなで翡翠屋で打ち上げをしよう」 クロノはフェイトの頭を優しくなでるとさっきまで曇っていたフェイトに笑顔が戻った 昭和57年10月22日午後9時45分 作戦開始 そこには現場の指揮を取る八神はやての姿があった 「いくでなのはちゃんフェイトちゃんシグナム3・2・1」 「「「GO!!!」」」 当初の作戦通り建物の制圧を後回しにしAMF発生装置の破壊に重点を置くことを再度、念話で簡潔にメンバーに通達する 「……なぁシャマル、確か清掃車って…」 目標を目前にヴィータはシャマルに問いかける 「えぇぇっと…確か…」 確かに清掃車である上部の「重機関銃」と「追加装甲」を除いて 「散れっ!」「てぇっ!!」 どががが!! 銃身が唸りを上げる 「主はやて!清掃車両から銃撃を受けています!!目標も逃走!」 「そっちも!?フェイトちゃんとことおんなじ使用やな」 「はやてちゃん!!」 なのはかから念話が入る 「こっちは順調!ディバインシューターで追撃中…チャンス!スターライ…え?」 「どないしたんや!?」 「ひ・非常識、おなか見せてるのに銃身がこっちむいて…」 航空機から光が瞬き―― ガララララッ!! シールド魔法を展開しぎりぎりでなのはは防ぎきった 「うぁ…みんな手間取ってるなぁ。せやけど…まだAMF発生装置が作動してへん今のうちに…」 どかん!! フェイトが追っているAMF発生装置の方角で爆炎があがる!! 第一段階が成功したかに思えた 「はやて!想定外の事態が!!」 「どないしたん!?」 「所属不明の装甲車が施設内に進入しAMF発生装置を破壊!」 同時にハウンドも動きを見せる 建物から部隊を一斉に展開させ隊長の矢島から全周囲の無線が入る 「我々は貴官達との戦闘を一方的に破棄し本来の目標『化け猫』との戦闘を開始する。邪魔をするな」 「うちらは眼中に非ずか…」 はやては一人、悪態をつきつつ各班に新たな指示を出す 「AMF発生装置はうちらの獲物や。それに本をただせば『化け猫』が一番悪いんや!!目標一時変更っ! 目標「化け猫の装甲車」!!」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/864.html
第5話「暗黒の魔の手」 アスカ=シン―――ウルトラマンダイナの乱入。 それも闇の書側につくという事態に、誰もが動きを止めて驚くしかなかった。 それは、もう一人のイレギュラー―――黒尽くめの男にとっても同様である。 「……多次元のウルトラマンか。 これは確かに、イレギュラーだな……」 メビウスがこの世界に現れたのは、重々承知していた。 その上でなおも、全ては筋書き通りに運ばれていたはずだった。 しかし、黒尽くめの男にとってこの事態―――ダイナの参戦は、完全な予想外であった。 この世界に、ウルトラマンは存在しない筈。 異次元での戦いにより、この次元世界へと転移してしまったメビウスが唯一の存在だった筈。 自らをダイナと名乗ったウルトラマンが、ならば何故存在しているのか。 その理由は一つ……彼もまた、別世界のウルトラマンであるということだ。 「出来る事ならば、まだ介入はしたくなかったが……やむをえんな。」 男の掌から、黒いガス状の何かが湧き上がってくる。 そのガスの名は、宇宙同化獣ガディバ―――男の意のままに動く、一種の生物である。 男が見つめる先にいるのは、結界を破壊すべく魔力を集中させているなのは。 予定よりも少しばかり早いが、驚異的な相手が増えてしまった以上、チャンスは今しかない。 (ましてやあのダイナと名乗るウルトラマンは、闇の書側にいる。 メビウスよりも下手をすれば危険だ……あの二人だけでは、役不足かもしれん。) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「デャァァァァッ!!」 「ジュアッ!?」 メビウスvsダイナ。 ウルトラマン同士での争いという、まさかの事態……優勢なのは、ダイナであった。 ダイナの方が優勢な理由は、ウルトラマンの戦闘方法の根源にあった。 ウルトラマンは、人知を遥かに超える多彩な光線技や超能力を持つ。 ならば、何故それを駆使して最初から勝負に出ないのか。 その理由は、エネルギーの消費を抑えるためであった。 ウルトラマンとて、永続的に戦えるわけではないのだ。 かつてダイナは、人工的にウルトラマンを作り出す計画――F計画の為に、利用されたことがあった。 その結果、人造ウルトラマンテラノイドが誕生した。 しかしこのテラノイドは、実戦においてとてつもない失敗を犯した。 テラノイドは、光線技を乱発しすぎ……すぐにガス欠を起こして倒されてしまったのである。 これはテラノイドのみならず、全てのウルトラマンに共通する問題である。 事実メビウスは、かつてニセウルトラマンメビウス―――ザラブ星人と敵対した際。 テラノイドと同様のミスを犯し、後から現れた異星人に打ち倒されてしまった経験があった。 だから、彼等が光線技を使うのはここぞという時ばかりなのだ。 それ故に、二人は格闘戦において戦闘を繰り広げていたのだが……単純な身体能力では、ダイナが勝っていた。 彼の豪快なパワーに、メビウスは圧倒されていたのだ。 メビウスにとって、これ程格闘戦で追い詰められることは久しぶりであった。 (レオ兄さんやアストラ兄さん並だ……いや、パワーだけならもっと……!!) 「デャァッ!!」 (けど……それだけで全部決まるわけじゃない!!) ダイナは加速の勢いに乗せ、全力の拳を突き出してくる。 命中すればタダではすまない……防御か回避か。 普通ならば、この二択のどちらかを取るのが当然である。 しかし……メビウスはそのどちらも取らなかった。 三つ目の選択肢―――カウンターを選んだのだ。 メビウスブレスの力が解放され、左の拳に集中される。 ライトニングカウンター・ゼロ。 メビウスブレスのエネルギーをプラズマ電撃に変えて、零距離から敵に叩き込む必殺の一つ。 ダイナの一撃に合わせ、メビウスは左の拳を突き出した。 狙いはクロスカウンター……当然ながら、命中すれば半端ではないダメージが乗る。 そして、先に攻撃を命中させたのは…… ドゴォォンッ!! 「デュアアァァァッ!!??」 「セヤァァァァッ!!」 紙一重の差で、メビウスの一撃が先にダイナを捉えた。 ダイナはパワーこそメビウスに勝っているものの、テクニックではメビウスに劣っていた。 ライトニングカウンター・ゼロの直撃を受け、後方のビルへと勢いよく吹き飛び、派手に激突する。 粉塵が巻き起こり、ダイナの姿がその中へと隠される。 今の一撃で、確実に怯んだ筈……倒すならば今しかない。 「ハァァァァァァァッ……!!」 メビウスは右手をメビウスブレスに添え、大きく腕を開きその力を解放する。 その瞬間、∞の形をした光が一瞬だけその姿を見せた。 そして、メビウスは腕を十字に組み、必殺の光線技―――メビュームシュートを放った。 「セヤァァッ!!」 ダイナを殺すつもりはない……だが、手加減して勝てる相手ではない。 そう判断したが故に、メビウスは敢えて全力で挑んだ。 メビュームシュートが直撃すれば、ただではすまないだろう。 今まさに、命中の瞬間が迫ろうとしていた……しかし。 「デュアァッ!!」 「!?」 粉塵を突き破り、蒼白い光線がその姿を現した。 ダイナは怯んでいなかった。 いや、怯んではいたかもしれないが……すぐに復活を果していたのだ。 そして、メビウスがメビュームシュートを放とうとしたのを感じ……とっさに同じ行動を取っていたのだ。 ダイナ必殺の光線―――ソルジェント光線。 両者の光線が、空中でぶつかり合った。 威力は互角……両者共に、鬩ぎ合っていた。 「クッ……ウオオオオォォォォォッ!!」 「ハアアァァァァァァァァァァァァァッ!!」 二人は光線に全力を注ぎ込み、相手に打ち勝とうとする。 光線の勢いは強まるが……それでも互角。 このままでは埒が明かない。 そう思われた……その瞬間だった。 二つの光線が、鬩ぎ合いに耐え切れなくなったのか……爆ぜたのだ。 強烈な爆発が起こり、メビウスとダイナはその余波で大きく吹き飛ばされる。 「グゥゥッ!?」 「ガハッ!?」 二人は建造物を三つほどぶち抜き、四つ目にぶち当たったところでようやく止まった。 どうやら、光線の破壊力は相当なものだったようだ。 しかし、まだカラータイマーの点滅にまでは至っていない。 戦いを継続する事は十分可能……そう判断するやいなや、二人は勢いよく空へと飛んだ。 守るべき一線がある……この戦いは負けられない。 二人が、眼前の敵を打ち倒すべく攻撃を放とうとするが……その時だった。 「ん……これは!?」 「凄いエネルギーだ……これが、なのはちゃんの……!!」 膨大なエネルギーが、一点―――なのはのいる場所へと集中しつつある。 それを感じ取った二人は、思わず彼女へと顔を向けてしまった。 なのはは既に、スターライト・ブレイカーの発射態勢に入っていた。 レイジングハートが、発射までのカウントダウンを読み上げている。 「Ⅸ、Ⅷ、Ⅶ……」 「あいつ、魔力を収束させているのか……!? くそ……何かは分かんねぇけど、止めなきゃやべぇ!!」 ヴォルケンリッター達も、ダイナ同様に収束されつつある膨大な魔力に気づいた。 一体なのはが、これだけの魔力を使って何をするかは分からない。 単純に攻撃を仕掛けるつもりなのか、結界を破壊するつもりなのか―――どちらにせよ、嫌な予感がする。 皆がそれを阻止すべく、奇しくも同時に動こうとした。 しかし……当然ながら、その行動は阻まれる。 ダイナはメビウスに、シグナムはフェイトに、ザフィーラはアルフに、ヴィータはユーノに。 行く手を阻まれ、彼等は歯がゆい思いをしていた……かのように、思われていた。 だが、事実はそうではない。 何故なら――― 「補足完了……!!」 なのは達に存在を知られていなかった伏兵―――シャマルが、ヴォルケンリッター側にはいたからだ。 クラールヴィントの二本の糸が、空中で円を形取る。 そしてその内部に出来上がった空間へと、彼女は勢いよく手を入れにかかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「そこだ……!!」 シャマルが行動を起こそうとした、まさしくその瞬間。 レイジングハートのカウントダウンが、残りⅠとなったのと同時だった。 黒尽くめの男が、勢いよく掌を突き出し……ガディバを解き放った。 ガディバは真っ直ぐに、なのはの背後から凄まじいスピードで接近する。 当のなのはは勿論、他の者達もそれには気づかない……いや、気づけないでいた。 そして、なのはがスターライトブレイカーを放とうとしたその時。 シャマルが、手を突き入れたその時。 ガディバはなのはの体内へと侵入を果し……そして。 「え……!?」 「あっ……しまった、外しちゃった。」 突然、なのはの胸から一本の手が生えた。 クラールヴィントを通じて、シャマルの手が彼女を突き破ったのだ。 とはいっても、なのはには肉体的なダメージはない。 シャマルの目的は、それとは別にあった。 彼女は狙いが外れたのを感じ、すぐに手を入れなおす。 直後、その手には赤く煌く光球が握られた。 これこそが、魔道士にとっての力の源。 その者が持つ魔力の中枢―――リンカーコア。 「リンカーコア、捕獲……蒐集開始!!」 シャマルはもう片方の手を、闇の書へと乗せた。 その瞬間……白紙だった筈の書物のページに、文字が次々に浮かび上がり始めた。 10ページ、いや20ページぐらいは一気に埋まっただろうか。 それに合わせて、なのはのリンカーコアが収縮をし始めていた。 (魔力が……吸い取られていく……!?) なのはは、リンカーコアの正体は知らない。 しかし、今の自分に何が起きているのかは、十分に理解できていた。 魔力が失われつつある―――吸い取られつつある。 このままではまずい。 全てが無駄になるその前に、やらなければならない―――なのはは、精一杯の力を振り絞った。 その手のレイジングハートを、勢いよく振り下ろす……!! 「スター……ライト……!! ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」 桜色の光が、砲撃となって撃ち放たれた。 メビュームシュートやソルジェント光線すらも上回る破壊力を持つ、強烈な必殺。 それは、海鳴市を覆い隠していた結界に直撃し……見事に風穴を開けた。 結界が崩壊していく……なのはは、結界の破壊に見事成功したのだ。 とっさにシャマルは、手を引っ込めた。 そして、それと同時に……なのはは地に膝を着き、そのまま前のめりに倒れこんだ。 「なのはぁっ!!」 『結界が破壊された……!! 離れるぞ!!』 『心得た……!!』 『うん……一旦散って、いつもの場所でまた集合!! ヴィータ……アスカさんをお願い。』 『分かった……アスカ、お前はあたしと一緒に来てくれ。 集合し終えたら、全部改めて話すから。』 『……うん、分かった。』 結界が破られた以上、時空管理局の更なる介入は確実。 ヴォルケンリッター達は、早々の撤退を決め込んだ。 事情をいまいち飲み込めていないダイナは、ヴィータについていく形となる。 逃げていく彼等を追いかけようと、とっさにメビウスも動くが…… 「待ってくれ……どうして、こんなことを!!」 「メビウス……ハァッ!!」 ダイナは二発目のソルジェント光線を、後方へと振り返り発射した。 とっさにメビウスは、メビウスディフェンサークルで防御をするが……耐え切れずに吹っ飛んだ。 その隙を突き、彼等はそのまま戦域を猛スピードで離脱していった。 完全に……逃げられてしまった。 「どうして……同じ、ウルトラマンが…… そうだ、なのはちゃん!!」 「アルフ、アースラに連絡急いで!! 早くなのはを!!」 「分かってる、もうやってるよ!!」 すぐさま皆が、なのはの元へと駆けつけた。 メビウスは着地すると同時に、変身を解き元のミライへと戻る。 なのはは完全に意識を失っている。 ユーノが回復呪文で応急処置を施してはいるが、これで元通りには流石にならない。 フェイトとアルフがアースラにすぐさま連絡を入れ、医療班を寄越すよう要請する。 自分達の、完全な敗北……そうとしか言えない結果であった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「それで、皆……」 「アスカさん、隠してごめんなさい。 でも、アスカさんを危険な目にあわせるわけにはいかなかったし……」 しばらくした後。 海鳴市から離れた人気のない場所で、ヴォルケンリッター達は再集合を果していた。 その後、ヴォルケンリッターはアスカへと、自分達の事情の全てを説明した。 自分達は、闇の書の意思によって作り出された守護プログラムだと。 闇の書の主を守り抜くことこそが、自分達の役目であると。 そして、主を―――闇の書に蝕まれつつあるはやてを助ける為に、自分達は戦っていると。 リンカーコアを蒐集し、闇の書を完成させればはやては回復するかもしれない。 少なくとも、病の進行を止める事は十分に可能である。 主の未来を血に染めない為に、命を奪いまではしない。 だが……主を助ける為ならば、如何なる茨の道をも進んで歩もう。 そんな強い覚悟の上で自分達は行動していると、ヴォルケンリッターはアスカに告げた。 「すまないな、アスカ。 我々の戦いに、お前まで巻き込んでしまう形になって。」 「いや……それは構わないよ。 そういう事情があるんなら……いや、事情云々じゃなくて、皆を助けたいから俺は戦ったんだし。 ……俺の事も、話さなくちゃいけないな。」 騎士達が全てを話してくれた以上、自分には事情を話す義務がある。 そう判断したアスカは、隠していた全てを話すことにした。 これまで度々話題に出していたウルトラマンダイナとは、実は自分自身であると。 ふとした切欠でダイナの力を手に入れ、ずっと悪と戦い続けてきたと。 暗黒惑星グランスフィアとの最終決戦後、ブラックホールに飲み込まれ、そしてこの世界にやってきたと。 話せることは、何もかもを話したのだ。 全てを聞かされたヴォルケンリッター達は、やはり驚きを隠しきれないでいる。 驚くのは、無理もないだろう……アスカもそう思っていた。 そして、この次に騎士達がどう質問してくるかも……大体想像がついていた。 「どうして……正体を隠していたんだ?」 「確かにあれだけ強い力があるのなら、不用意に明かせないのは分かるが……」 「目立ちたがりのお前にしちゃ、なんかなぁ……」 予想通り、騎士達は正体を隠していた理由について聞いてきた。 これに対しアスカは、少し間を置いた後に答える。 かつて自分の正体に気づき、そして同じ問いをしてきた仲間達にしたのと……同じ答えを。 「俺、確かに目立ちたがり屋だけど……それ以上に、照れ屋なんですよ。」 「……」 「………」 「……今の答え、変だった?」 「……はは。 いや……お前らしいよ。」 「ったく……しょうがねぇ奴だなぁ。」 アスカの答えは、予想を大幅に裏切ってくれた。 これに対しヴォルケンリッターは、流石に苦笑するしかなかった。 どんな深刻な理由があるのかと思ったら……アスカらしい理由である。 しかし……彼等の笑みも、すぐに消えた。 お互いの事を話し合った以上、今後は互いにどうするのかを話さなければならない。 もはや、今までどおりというわけにはいかないのだ。 しばらくの間、五人とも沈黙せざるを得なかったが……アスカが、その沈黙を真っ先に破る。 「……俺は、魔法とかそんなのはよく分からないけど。 闇の書さえ何とか完成させれば、はやてちゃんを助けられるんだよな……」 「アスカ……いいのかよ? この戦いはあたし達守護騎士の総意だけど、お前までそれに……」 「はやてちゃんが危険な目にあってるってのに、助けられないなんて俺はごめんだから。 俺には皆と同じように、戦う力が……ダイナの力があるんだ。 そしてそれを使うのは……きっと今だ。」 「アスカ……」 「だから……これから、よろしく!!」 「……ああ、こちらこそよろしく頼むぞ!!」 アスカの決意は固かった。 この世界にきて天涯孤独の身であった自分を、彼等は家族として扱ってくれた。 自分の大切な家族である者達を、この手で助けたい。 ダイナの力は、大切な人達を助ける為にあるのだ。 それを振るうチャンスは、正しく今である。 アスカは強い決意を表し、真っ直ぐに拳を突き出す。 それに合わせ、ヴォルケンリッター達も己の拳を合わせた。 この時アスカは、新たなる騎士となった。 はやてを守るためにその力を振るう、5人目のヴォルケンリッターとなったのだ。 「あ……そういえば、聞き忘れてたけど。」 「ん?」 「アスカ、あのメビウスって言うウルトラマンの事は何も知らねぇのか?」 「あいつか……ああ、ごめん。 俺もあのウルトラマンの事は、何も知らないんだ。」 メビウスの正体に関しては、アスカが一番気になっていた。 彼が知るウルトラマンは、己を除けばたった一人―――ウルトラマンティガだけである。 一応、異星人が変身を遂げたニセウルトラマンダイナや、人造ウルトラマンの様な存在もいるにはいる。 だが……メビウスは、明らかにそんな紛い物とは違う感じがした。 ティガやダイナと同じ、本物のウルトラマンである。 しかし、アスカが知らないウルトラマンがいることに関しては、大した不思議はない。 元々ティガやダイナの力は、ある遺跡の中に、彼等の姿をした石像と共に眠っていた。 その遺跡には、他のウルトラマンらしき者達の石像もあったのだ。 もしかするとメビウスは、そんな別のウルトラマンなのかもしれない。 少なくとも、アスカはそう考えていた。 「多分、あいつとはまた会う事にはなるだろうけど……その時に何か分かるかもしれないな。 この世界に俺以外のウルトラマンがいること自体、おかしいんだし。」 「そうだな……おかしい、か。 そういえばシャマル、さっきリンカーコアを捕獲しようとした時に、失敗していたな。」 「お前にしては、随分珍しいミスだな。 捕獲を失敗した事など、これまで一度もなかったというのに……」 「うん……手を入れたときに、何か妙な違和感があったの。」 「違和感?」 「リンカーコアとは別の、何かがあの子の中にあったような感じがしたの。 でも……気のせいだったかもしれないわね。 今考えてみたら、アスカさんの事でちょっと戸惑ってたし。」 「そうか……無理はしないでくれ。 もしも体調が優れないようならば、すぐにでも言ってくれ。」 「ええ、分かっているわ。」 シャマルが捕獲を失敗したという、これまでにないミス。 それに、ヴォルケンリッター達は少しだけ不安を感じていた。 だが、どんな人間にも100%はありえない……失敗は十分に起こりえる。 今回の失敗は、たまたまその僅かな可能性に当たっただけだろう。 シャマル自身も、アスカの変身により少しばかり戸惑っていたからだと言っている。 その為、皆もこの話題に関しては打ち切る事にした。 しかし……この時、誰が予測しただろうか。 闇の書の中には、今……彼等も知らぬ、未知の存在があることを。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「上手くやったようだな……」 「ああ……予定より少しばかり早くなってしまったが、問題はない。」 結界が消え、元通りとなった海鳴市。 その一角で、黒尽くめの男ともう一人―――仮面をつけた謎の男が対峙していた。 敵対しているという風な感じはなく、どちらかというと協力者同士の様な印象が強い。 「あの魔道士を介して、私は切り札を闇の書に送り込んだ。 本来ならば、予め憑依させておいた生物を蒐集させる事で、憑かせるつもりだったが……」 「綱渡りな方法であったとはいえ、結果的に成功した。 成果は得られたのだから、それで十分だ。」 「ああ……万が一の際には、これで力を押さえ込むことが可能だろう。」 「……すまないな、助かる。」 「気にするな……我々とて、闇の書によって同胞を失った。 あれを止めようと願う気持ちは同じだ……」 黒尽くめの男は、懐から一枚のカードを取り出した。 それは、起動前の形態を取っているデバイスだった。 黒尽くめの男はそれを、仮面の男へと確かに手渡す。 「約束の品だ、受け取ってくれ。 我等の技術を結集させて作り上げた……性能は保証しよう。」 「ああ……これから我等は、闇の書の完成を急ぐ。 万が一の時は、そちらに任せるぞ。」 「分かった……お互い、気をつけるとしようか。」 仮面の男はデバイスを懐にしまい、そしてその場から姿を消した。 場に残された黒尽くめの男は……一人、笑っていた。 仮面の男を嘲笑するかのように、確かな笑みを浮かべていた。 「そう……気をつける事だな。 我々は暗黒より生まれ、全てを暗黒へと染める悪魔……そんな我等と、貴様達は手を組んでしまった。 御蔭で、どの様な結末になってしまうのかも知らずになぁ……」 全ては悪魔の筋書き通りだった。 唯一イレギュラーがあるとすれば、やはりそれはダイナの存在である。 未知数の力を持つウルトラマンが相手なだけに、全く今後の予想がつかない。 だが……それでも、問題はない。 何か厄介な事態が起ころうものならば、強引に修正するだけである。 全ては……力を手にし、光をこの世より消し去る為。 「ふふふ……はははははははは……!!!」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/959.html
第10話「再会は異世界でなの」 「フェイトォッ!!」 エイミィからの連絡を受けたアルフは、すぐさまフェイトの元へと駆けつけた。 幸いにも、彼女が相手をしていたザフィーラは「十分過ぎる成果を得られた」と言い残し、すぐに撤退してくれた。 その為、フェイトが倒されてからあまり間を空けずに到着する事が出来た。 彼女がその場に到着した時、そこに仮面の男の姿は無かった。 あるのは、意識を失ったフェイトとそんな彼女を抱きかかえるシグナム二人の姿だけだった。 「シグナム……!!」 「……テスタロッサの目が覚めたら、伝えておいて欲しい。 言い訳をするつもりは無い……すまなかったとな。 テスタロッサは、リンカーコアを抜かれてから大して時間は経っていない。 すぐに適切な処置をすれば、目も覚ますだろう。」 「え……あんた……」 アルフは、シグナムの言葉を聞いて少しばかりの戸惑いを覚えた。 自分達は敵同士、追う立場と追われる立場なのだ。 今、フェイトは極めて無防備な状態にある。 再起不能になるだけのダメージを負わせるなり、人質として連れ帰るなり、状況を有利に出来る手段は幾らでもある。 だが彼女は、その一切を取らなかった。 一人の騎士として、そんな卑劣な真似をしたくは無かったのか。 互角にまで渡り合えたフェイトに、敬意を払ったのか。 それとも……守護騎士として、主の名を汚したくなかったのか。 どれにせよ、シグナムが正々堂々とした態度を取っているという事実には変わりない。 「……敵同士で、こういう事を言うのもあれだけどさ。 その……ありがとうね、シグナム。」 「……礼には及ばない。」 シグナムはアルフへと、フェイトを手渡した。 そして、直後……彼女は転移呪文を使ってこの世界から姿を消した。 敵でありながらも、シグナムはフェイトの身を案じてくれていた。 アルフは、少しばかり複雑な気持ちではあったものの、その事に感謝していた。 とりあえず、何はともあれフェイトを急いで運ばねばならない。 アルフの術では、ここから時空管理局本局まで飛ぶのは流石に無理な為、エイミィに頼むしかなかった。 すぐさま、エイミィとの連絡を取ろうとするが……その瞬間だった。 突如として、激しい地響きが発生したのだ。 震源は真下……アルフの足元からだった。 「まさか!!」 嫌な予感がしたアルフは、すぐに上空へと飛び上がった。 この世界には人間は一切いないが、その代わりに大型の野生生物が多く存在している。 それが、今まさに現れようとしているのだ。 フェイトを抱えたままでは、対処の仕様が無い……彼女を安全な場所に避難させなければ。 すぐにアルフは術を発動させ、フェイトを先にエイミィの元へと送ろうとする。 「エイミィ、フェイトの事お願い!!」 『うん、もう本局に連絡は取れてるから何とかできるけど……アルフは?』 「流石に、二人一緒にってのは少し時間がかかるからね。 私なら大丈夫だよ、すぐに後から行く。」 『分かった……気をつけてね!!』 「ああ……!!」 フェイトの姿が、その場から消えた。 アルフの術によって、無事にエイミィの元へと転送させられたのだ。 後はエイミィがゲートを繋いで、フェイトを本局へと送ってくれるだろう。 これで、彼女の事は何とか安心できる……後は、自分の問題を片付けるだけである。 地響きが真下から来た事から考えれば、相手の狙いは間違いなく自分。 恐らくは、餌と認識されたのだろう。 「さあ、来るならさっさと来なよ!!」 アルフが構えを取った、その直後。 大量の砂塵を巻き上げながら、その生物は姿を現した。 青い体色の、顎が大きく発達した怪獣。 かつて、ウルトラマンジャックとウルトラマンエースの二人が戦った相手。 そしてメビウスも、その亜種と激闘を繰り広げた敵―――ムルチ。 「ギャオオオォォォォッ!!」 ムルチは口を大きく開き、アルフへと破壊光線を放つ。 アルフはそれを障壁で受け止めると、すばやくムルチの胸元へと移動した。 体格の差は圧倒的ではあるが、逆にそれが味方をしてくれた。 ムルチの巨体では、懐に入ってきたアルフに対処が出来ないのだ。 「ハアアァァァッ!!」 強烈な拳が、ムルチの胴体に叩き込まれた。 鳩尾に一撃……かなり効いている。 そこからアルフは、間髪入れずに拳の連打を浴びせた。 ザフィーラからの連戦だから厳しいかと思ったが、どうやら予想していたよりも大した敵ではなさそうだ。 アルフは少しばかりの余裕を感じた後、ムルチを沈めるべく一気に仕掛けた。 しかし……この時、彼女は思いもしなかっただろう。 もしもミライがいたならば気づけただろうが……本来ムルチは、こんな砂漠にいる筈がないなんて。 ムルチが、『巨大魚怪獣』の呼び名を持つ『水棲怪獣』であるなんて。 一応過去に一度、ムルチは地中からその姿を現したこともあるが……それでも、砂漠という環境は流石に無茶である。 ならば何故、ムルチがここで活動できているのか……その理由は一つしかない。 悪魔の魔の手は……既に、数多くの世界に広がっていたのである。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ディバインシューター!!」 『Divine Shooter』 「シュート!!」 なのはは5発ほどの魔法弾を生成し、それをレッドキングへと一斉に放った。 しかしレッドキングは、大きく尻尾を振るってその全てを掻き消す……ダメージは皆無。 その後、レッドキングは再び大岩を持ち上げると、なのはへと投げつけてきた。 遠距離にいるなのはに仕掛けるには、これ以外の攻撃手段はレッドキングにはない。 確かに命中すればダメージは大きいだろうが、流石に攻撃が単調すぎる。 なのはには、あっさりと避けられてしまった。 「パワーは凄いけど、距離さえ離しちゃえば……!!」 レッドキングの戦闘スタイルは至って単純。 怪力に任せての、荒々しく凶暴なものである。 接近戦における圧倒的不利は、目に見えている。 しかし距離さえ離してしまえば、攻撃の手段は岩を投げる以外に無い。 両者の戦い方は、完全な対極に位置している。 その事実は、なのはにとっては幸運であり、そしてレッドキングにとっては不幸以外の何物でもなかった。。 流石にレッドキングもこのままでは不利と悟り、一気に距離を詰めにかかった。 だが……レッドキングが取った行動は、走ってくるとかそんなレベルの話ではなかった。 力強く両脚で地面を蹴り、文字通りに『跳んで』きたのだ。 これにはなのはも度肝を抜かれた。 幾らパワーが持ち味とはいえ、あの巨体でここまで跳び上がれるのか。 しかもスピードがある……回避は出来ない。 なのははとっさに、障壁を出現させる……が。 「っ……キャアァッ!!」 レッドキングは、2万トンの体重を持つ超重量級の怪獣。 そのロケット頭突きには、流石に堪え切る事が出来なかった。 なのはは後方へと大きくふっ飛ばされ、派手に地面に激突する。 ヴィータにラケーテン・ハンマーをぶちかまされた時と同じ。 いや、あの時以上かもしれない破壊力があった。 不幸中の幸いだったのは、地面に激突する寸前に、レイジング・ハートが自動的に障壁を展開してくれた事。 その為、何とかダメージは軽減できたのだが…… レッドキングは、ここで追い討ちを仕掛けてきた。 大きく足を上げて、なのはを踏み潰しにかかったのだ。 ロケット頭突き以上に危険すぎる……防御の有無抜きで、命中したら致命傷は免れない。 「ギャオオオォォォン!!」 「レイジングハート!!」 『Flash Move』 とっさに急加速し、間一髪攻撃を避ける。 その直後、相当な量の土煙が吹き上がってなのはの全身を覆い隠す。 あと少し遅れていたら、確実に踏み潰されていただろう。 そのままなのはは、素早くレッドキングから離れようとする。 しかし今度は上空には飛び上がらず、低空飛行で移動している。 これは、先程のロケット頭突きを警戒しての行動だった。 今レッドキングの周囲には、大岩は勿論、投げる事の出来るような物は一切無い。 普通に考えれば、なのはを攻撃する手段は無いように思われるが……先程のロケット頭突きの様な奇襲もありえる。 そう安易に考えてはいけないのは、なのはも重々承知していた。 そしてレッドキングはというと……そんな彼女の考えどおりに、仕掛けてきた。 投げる物が無ければ、作ればいい。 そういう風に考えたのだろうか、あろうことかレッドキングは、地面を怪力で引っぺがしたのだ。 そのまま、なのは目掛けて巨大な土の塊を投函してきたのである。 土は岩に比べれば、かなり脆い。 命中まで形をとどめる事が出来ず、上空で砕け散り、無数の土砂となってなのはへと降り注いできたのだ。 「っ!!」 『Wide Area Protection』 相手が岩ならば打ち砕けたのだが、土砂となるとそうもいかなくなる。 なのははとっさにカートリッジをロードして、広域防御結界を展開した。 その直後、彼女の身に大量の土砂が降りかかった。 あっという間にその全身は土砂の中へと埋まり、姿が隠されてしまう。 土砂は大量、結界も何もなしに埋まったのではまず助からないレベルである。 だが……レッドキングは、それで満足するような怪獣ではなかった。 なのははミライから聞いたときに少しばかり疑問に思ったが、レッドキングは名前に反して『白い』体色をしている。 ならば何故、レッドキングなどという名前が名付けられたか。 それは、この上なく凶暴で『赤い血』を見ることを何よりも好むからである。 レッドキングは、極めて獰猛かつ残忍なのだ。 かつては、自分よりも遥かにか弱い存在であるピグモンを徹底的に甚振り、死に至らしめた事すらもある。 そんなレッドキングが……土砂で覆い潰したぐらいで、満足するわけが無い。 「ギャアオオオオォォン!!」 確実な死を与える為、レッドキングは両手を組んで、地面へとハンマーフックを打ち下ろした。 それも一発ではなく、何度も何度もである。 拳が叩きつけられるごとに、土砂が勢いよく跳ね上がる。 そして、およそ十発程打ち下ろした後。 レッドキングは周囲を見回して、丁度いいサイズの大岩を見つけ出した。 仕掛けるのは、駄目押しの一撃……豪快に持ち上げて、そして地面に叩きつけようとする。 これで、まずなのはは生きてはいまい……そうレッドキングは思っていただろう。 だが……その瞬間だった。 『Divine Buster』 「ッ!?」 地面の下から、レイジング・ハートの声が聞こえてきた。 直後、眩い桜色の光が地面を突き破って出現し……レッドキングの手首に命中した。 レッドキングは思わず大岩を落としてしまい、そしてその大岩がレッドキングの足の指を直撃する。 かつてミライ達も取った、レッドキングにとって最も効果的な攻撃手段の一つである。 『ギャオオオォォォン!!??』 レッドキングは足を抱えて、悲鳴を上げた。 なのはは倒されていないどころか、全くの無傷。 何故なら彼女は今、土砂の下……攻撃の届かない、深い穴の底にいるからだ。 レッドキングが追い討ちに出てくるのは、容易に想像できた。 それをまともに耐え切ろうとするのは、自殺行為に他ならない。 そう判断したなのはは、土砂で姿が隠された瞬間に、地面に穴を空けたのだ。 後は攻撃がやむまで、安全な穴の中に身を隠すだけだった。 上方の土砂は、障壁を展開する事でなだれ込んでくるのを防いでいた。 そして、レッドキングが大岩を拾いにいき攻撃が中断された瞬間。 なのはは契機と見て、仕掛けたのである。 ちなみにディバインバスターを放ったのは、外の様子が分からない現状でも、攻撃範囲が広いこの術ならば当たると踏んだからだ。 「いくよ、レイジングハート!!」 『All right』 レッドキングの悲鳴から察するに、レッドキングは怯んでいる。 またとない攻撃のチャンス……仕留めるのは今。 なのはは一気にカートリッジをロードし、レイジングハートの矛先を斜め上へと向けた。 直後、膨大な魔力が彼女の周囲に収束し始めた。 カートリッジシステムに変更してからは、これが初めてになるなのは最強の魔法攻撃。 「全力……全開!!」 『Starlight Breaker』 「スターライト……ブレイカアァァァァァッ!!」 膨大な量の魔力光が、地面を突き破りその姿を現した。 そしてそのまま、真っ直ぐにレッドキングへと向かい……直撃。 レッドキングは猛烈な勢いで、光と共に上空へと打ち上げられていった。 数秒して、レッドキングは地上20メートル程の高さに到達し……そして。 ドグアアアアァァァァァァン!!! 大爆発。 レッドキングは、見事に打ち倒されたのだった。 なのはは、スターライト・ブレイカーによって吹き抜けになった穴の底から、それを確認する。 無事に打ち倒す事が出来、ほっと一息つく。 そして、彼女が地上へと出た時……ようやくメビウスが、現場へとその姿を現した。 彼は、既にレッドキングが倒されていたのを見て、少しばかり驚いた。 流石というべきだろうか……自分の助けは無用だったみたいだ。 「なのはちゃーん。」 「あ、ミライさん。」 「レッドキング、もうやっつけちゃったんだ……来た意味、あまりなかったみたいだね。」 「にゃはは……じゃあ、早く戻りましょう。 フェイトちゃんの事が心配だし……」 「うん……!?」 帰還しようとした、まさしくその時だった。 これで二度目になる、強烈な地響きが発生した。 揺れはかなり激しい……一度目よりも大きいかもしれない。 流石に立っていられなくなった二人は、上空へと飛び上がる。 そしてその後……同時に、レッドキングが出現した火山へと視線を向ける。 二人とも、とてつもなく嫌な予感がしていた。 まさかと思うが、もう一匹何かが来るんじゃなかろうか。 確かめる為、二人はエイミィに連絡を取ろうとする……が。 「あ、あれ……?」 「念話が、繋がらない……!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「レッドキングは倒され、ムルチも圧倒されっぱなしか。 ヴォルケンリッターを相手にした後で、よくやれる……」 広大に広がる砂漠、荒廃した建物の山々。 黒尽くめの男―――ヤプールは、自分以外には何者も存在しないこの異世界から、全てを見ていた。 そう……レッドキングとムルチを仕向けたのは、他ならぬこの悪魔だったのだ。 ヴォルケンリッターや仮面の男の御蔭で、多少なりともなのはとアルフは消耗している。 倒すのならば今がチャンスと感じ、現地に潜ませておいた怪獣を襲い掛からせたのである。 超獣は、怪獣がベースとなって作り出される生物兵器。 怪獣がいなければ、一部の例外的なものを除けば、基本的に作成は不可能なのだ。 そして、より強い怪獣がベースであればあるほど、生み出される超獣も強くなる。 そこでヤプールは、これまで異次元空間内に捕らえてきた多くの怪獣を、近辺の異世界に解き放ったのだ。 野生のままに暴れさせ、成長させる方が、より強くなるだろうと判断した結果である。 その内幾つかの怪獣には、既に軽い改造は施してある……ムルチもその内の一匹。 乾燥した、砂漠のような土地でも動けるよう改造してあったのだ。 無論、狙いはそれだけではない……今回の様になのは達が異世界に現れた際、それを撃退する事も目的である。 しかしながら、レッドキングとムルチは倒されてしまった。 ならば、次の手を打つまで……特になのはとメビウスの二人は、ここで確実に潰す必要がある。 魔力の蒐集が不可能な以上、二人は単なる邪魔者でしかない。 管理局の方に対しては、既に手は打ってある。 仮面の男が、自分達の足跡を下手に辿られない様にと、先程ハッキングを仕掛けておいてくれたのだ。 これは、仮面の男が管理局に通じているからこそ出来た裏技。 御蔭で管理局側からの増援は、当分の間食い止められる……思う存分に叩き潰す事が出来る。 ヤプールは、不適に笑い……新たなる僕を呼び出した。 「行け……ドラゴリー、バードン!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「エイミィ……?」 一方その頃。 ムルチと戦っていたアルフも、異変に気がついた。 いつのまにか、エイミィとの連絡が全く取れなくなっている。 あのエイミィに限って、現場から離れるなんてそんな馬鹿な事はありえない筈。 そうなると……考えられるのは、何者かからの妨害行為しかない。 ヴォルケンリッターか仮面の男か、どちらかもしくは両方か、自分達の足跡を辿られない様にしたのだろう。 しかし先程のシグナムの事を考えると、ヴォルケンリッターがこんな真似をするとは考えがたい。 (いや……そうとも言い切れないか。) 一人だけ、そんな真似をしかねない者がいた。 初遭遇の日、なのはに奇襲を仕掛けてリンカーコアを抜き取ったシャマルだ。 考えてみれば、ヴィータ・シグナム・ザフィーラの三人しか異世界には姿を現していない。 ダイナに関しては別として、シャマルは先日の戦いにも、直接の参加はしていない。 完全なバックアップ担当と見ていいだろう。 それに、あまりこういう言い方はしたくないが……一人だけ、正々堂々とは言い切れない。 彼女の性格はよく知らないが、それでも十分にありえる話だ。 勿論、仮面の男が妨害行為をした可能性もある……寧ろ、こちらの方が可能性としては高い。 仮にシャマルがやったのだとしたら、何でそれを今までやらなかったのかという話になるからだ。 だが仮面の男は、先日はベロクロンのゴタゴタに紛れてだったが、今回にはそれがない。 完全な形で姿を見せたのは、これが初……ならば、彼等であるのはほぼ間違いないだろう。 タイミング的にも、十分合う。 「どっちにせよ、こいつをぶっ倒してさっさと戻ればいい話さ。 とっとと決めに……!?」 とどめの一撃を叩き込もうとした、その瞬間だった。 何処からか、「ミシリ」と何かに亀裂が走るような音が聞こえてきた。 アルフはとっさに、その音源……上空を見上げた。 見渡す限り砂漠のこの世界に、そんな物音を立てられそうな代物なんて一つもない。 ただ一つ……昨日も目にした、空を除けば。 「まさか、嘘……!?」 ガッシャアアアァァァァァン!!!! 空が割れ、その超獣は姿を現した。 地球上に生息している蛾と、宇宙怪獣とを組み合わせて誕生した超獣。 かつて、エースとメビウスを苦しめた蛾超獣ドラゴリー。 ドラゴリーは着地すると、早速アルフへと攻撃を仕掛けてきた。 唸りを上げ、両腕を振り回す。 アルフはとっさに急加速し、その一撃を逃れる。 しかしその背後には、大口を開けて待ち構えていたムルチがいた。 「ギャオオオォォン!!」 「くっ……!!」 ムルチは口を開き、破壊光線を放つ。 アルフはとっさに障壁を展開し、その一撃を受け止める。 するとここで、今度はドラゴリーが背後から仕掛けにきた。 両の眼球から光線を放ち、アルフを焼き殺そうとする。 挟み撃ち……両方の攻撃を防御しきる自信はない。 ならばと、アルフは障壁を維持したまま上空へと急上昇した。 それにより、ムルチとドラゴリー両者の攻撃は、それぞれ正面にいる相手に命中してしまう。 見事、同士討ちをしてくれたのだ。 「ギャアアァァァ!?」 「グオオオォォォン!!」 「やった……あんまり、頭はよくないみたいだね。 それにしても、どうして……!!」 何故、ヤプールの超獣がこんな異世界に現れたのか。 先日の襲撃の件も考えると、やはり狙いは自分達ということになる。 メビウスに味方する者を全滅させるつもりなのは、まず間違いない。 ヤプールが闇の書を狙っているというのなら、尚更になる。 ここで自分が倒れれば、ヤプールは簡単に魔力を手に入れることが出来るからだ。 後は何らかの形で仮面の男同様にヴォルケンリッターに接触し、それを渡せばいい。 「全く、面倒なことしてくれちゃって……!?」 ここでアルフは、言葉を失った。 その眼下では、ドラゴリーとムルチが争いあっている。 同士討ちを狙った以上、それ自体はありがたいことなのだが…… 正直言うと、これは争いとは呼びがたい。 そう、それは……一方的な虐殺だった。 両者の戦闘能力の差は、圧倒的過ぎた。 ドラゴリーはムルチを、徹底的に甚振っていたのだ。 ムルチはドラゴリーに馬乗りにされ、滅多打ちにされている。 必死になって抜け出そうと、ムルチはもがいている。 だがドラゴリーは、無情にもそんなムルチの左腕と肩を掴み……その怪力で、一気に左腕をもぎ取った 鮮血を噴出しながら、ムルチがもがき苦しむ。 しかしそれでも、まだドラゴリーの攻撃は終わらない。 今度は右腕と肩を掴み、そして勢いよく右腕をもぎ取った。 ドラゴリーは、ムルチを徹底的に八つ裂きにしようとしているのだ。 ムルチが悲痛な叫び声を上げる。 それが癪に触ったのだろうか、ドラゴリーはムルチの嘴を掴んだ。 そして……両手で一気に開き上げ、そのまま顔面を真っ二つにしたのだ。 ムルチの泣き声が止む……絶命したのだ。 「っ!!」 あまりの酷さに、つい動きを止めてしまっていたが……そんな場合じゃない。 寧ろ、敵の注意がそれている今は最大の攻撃のチャンスである。 アルフはすぐに飛び出し、全速力でドラゴリーへと向かった。 魔力を乗せた拳を、その後頭部へと全力で叩き込む。 流石にドラゴリーも、この奇襲には反応できなかった。 少しよろけ、地面に倒れそうになる……が。 「キシャアアァァァァッ!!」 そう簡単には、倒れてはくれない。 ドラゴリーは踏ん張ると、振り向き、その鋭い目でアルフを睨みつけた。 強い殺意に満ちているのが、一目で分かる。 この超獣は、ムルチよりも遥かに危険。 即座にその事実を、アルフは理解する事が出来た。 「……どうやら、最初に来た奴ほど甘くはないみたいだね……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「どうして、連絡が……」 「なのはちゃん、くる!!」 「あ、はい!!」 同時刻。 なのはとメビウスの前にも、ヤプールから送り込まれた刺客が現れた。 レッドキングが出現したのと同じ、火山の麓。 そこから唸りを上げ、その怪獣は現れた。 その姿を見て、メビウスは思わず声を上げてしまった。 現れたのは、ウルトラ兄弟最強と詠われた二大戦士、タロウとゾフィーを一度は葬り去った大怪獣。 メビウス自身も、かつて深手を負わされてしまった、最大の強敵が一匹―――火山怪鳥バードン。 レッドキングとは……格が違いすぎる。 「そんな……!! レッドキングの次は、バードン!?」 「キュオオオォォン!!」 バードンは高らかに泣き声を上げると、その場で強く羽ばたいた。 強烈な突風が巻き起こり、周囲の木々が次々に吹き飛ばされていく。 バードンの羽ばたきは、民家を一つ破壊する程の威力がある。 なのはとメビウスは、とっさに防御を固めるが……踏ん張りきれない。 「セヤァァッ!?」 「キャアァァァッ!!」 二人は突風に煽られ、後方へと吹き飛ばされてしまった。 特に、バードンとのサイズの差があるなのはの方は、100m以上吹き飛ばされてしまっている。 そうなると、攻撃対象が近くにいるメビウスの方となるのは必然。 バードンは大きく翼を広げ、メビウス目掛けて飛びながら迫ってきた。 その巨体からは想像がつかないほどの、とてつもない速さ。 とっさにメビウスはメビウスディフェンスサークルを展開して、バードンの嘴を受け止める。 嘴による一撃だけは、絶対に受けてはならない。 その恐ろしさがどれ程のものか、メビウスは身をもって味わった経験があった。 メビウスはすぐに間合いを離して、光弾をバードンへと放つ。 しかしバードンは、それを翼で弾き飛ばした。 そしてそのままの勢いで、メビウスに翼を叩きつける。 「グゥッ!?」 「キュオオオォォン!!」 「ミライさん!! レイジングハート、カートリッジロー……!?」 『Master!?』 「なのはちゃん……!?」 まともに胴体に打ち込まれ、メビウスが怯む。 それを見たなのはは、すぐさま助けに入ろうと、カートリッジをロードしようとした。 だが、その瞬間……異常は起きた。 なのはが胸元を押さえ、急に苦しみ始めたのだ。 顔色は悪く、汗も酷く流れ出ている……全身の震えも止まらない。 レイジングハートは、一体彼女に何が起こったのか、まるで分からなかったが……数秒して、事態を把握した。 よく見てみると、バードンの周囲の木々が枯れはじめているのだ。 『まさか……この生物は……!?』 「なのはちゃん、急いで地球に戻って!! バードンは、体内に猛毒を持ってる……このままじゃ危険だ!!」 「毒……!?」 バードンはその体内に、強力な毒素を持っている。 それが先程の羽ばたきによって、微量ながらも散布されてしまっていた。 なのはは運悪く、それを吸い込んでしまっていたのだ。 メビウスが嘴による攻撃を恐れていたのも、ここにあった。 万が一、刺されてしまった場合……直接毒素を注入されてしまうからだ。 このままでは命に関わりかねないと、すぐに撤退するようメビウスはなのはに促した。 彼女をこのまま戦わせるのは危険すぎる……バードンは、自分一人で倒さなければならない。 幸い、メビウスは空気中の毒素の影響は受けてはいない。 戦うことは十分可能……すぐに向き直り、構えを取る。 「セヤァッ!!」 「キュオオオォォン!!」 メビウスはバードンの胴体へと、蹴りを打ち込む。 バードンは少しばかり怯むも、すぐに持ち直して反撃に移った。 怒涛の勢いで繰り出される、翼による殴打の連打。 メビウスは防御を固め、反撃の隙をうかがった。 そして、その時はすぐに来た。 バードンが大きく振り被って、翼を打ち下ろしにかかる。 その一瞬の隙を狙い、メビウスは前転。 バードンの背後に回り込んで、一気に仕掛けにかかった。 「セヤァァァァッ!!」 メビウスブレスのエネルギーを開放し、拳に纏わせる。 必殺の拳―――ライトニングカウンター・ゼロ。 メビウスは勢いよく、全力でその一撃を背後から叩き込んだ。 直撃を受けたバードンは、呻き声を上げて地面に倒れ…… 「キュオオオン!!」 こまない。 とっさに地面へと両手をつけ、ギリギリのところで踏ん張っていたのだ。 その後、地面を蹴ってそのまま跳躍。 メビウスとは逆方向―――なのはのいる方へと、接近していったのだ。 肝心のなのはは、魔方陣を展開して撤退寸前だった。 しかし……この強襲を前にして、それを中断せざるを得なくなる。 とっさに、バードンを迎撃しようとするが…… 「っ……!!」 視界が霞んで、狙いが定まらない。 毒の影響が、予想以上に響いていたのだ。 ならば先程レッドキングに仕掛けた時のように、ディバインバスターでいくのみである。 なのはは気力を振り絞り、魔力を収束させる。 「ディバイン……バスタアアァァァァッ!!」 魔法光が放たれ、真っ直ぐにバードンへと向かう。 だが……その威力が、先程に比べて弱い。 毒による消耗のせいで、完全に力を出し切る事が出来なかったのだ。 バードンは迫り来る光に対し、口を開き高温の火炎を吐き出した。 ディバインバスターが、相殺されてしまう。 そのままバードンは、なのはへと接近……嘴を突きたてようとした。 なのはは、とっさに目を閉じてしまう。 しかし……その瞬間だった。 「グッ……!?」 「!! ミライさん!!」 なのはをかばって、メビウスがその一撃を受けてしまっていた。 深々と、バードンの嘴が肩に突き刺さってしまっていたのだ。 メビウスはすぐにバードンへと拳を打ち込み引き離すも、その場に膝をついてしまう。 これで彼の体内にも、毒が回ってしまった。 胸のカラータイマーが赤色へと変化し、音を立てて点滅し始める。 バードンはその様を見ると、高らかに鳴き声を上げる。 それはまるで、己の勝ちを確信し、嘲笑うかのようであった。 そして、トドメを刺すべくバードンが動く。 大きく口を開き、二人目掛けて火炎を噴出した。 (まずい、このままじゃ……!!) せめて……なのはちゃんだけでも……!!) 障壁の展開は間に合わない。 自分の体を盾にして、炎からなのはを守るしかない。 重傷を負うのは確実……最悪死ぬかもしれないだろうが、それ以外に方法は無かった。 メビウスは、迫り来る炎を前にして覚悟を決めた。 なのははそんなメビウスを見て、力を出し切れなかった己を呪った。 何とかして、メビウスを―――ミライを助けたい。 なのはとメビウスと。 二人が、互いを思い強く願った……その時だった。 祈りは通じた―――奇跡は起こった。 ドゴォォォンッ!! 「えっ!?」 上空から、二人とバードンとの間に赤く輝く光の玉が落ちてきた。 その玉が丁度、火炎から二人を守る盾の役割を果す。 なのははこの予想外の自体を前に、ただ驚くしかなかった。 しかし……メビウスは違った。 彼は、この光の玉に見覚えがあった。 やがて光は消え、玉の中から何者かが姿を現した。 メビウスと同じ大きさをした、銀色の巨人。 その胸に輝くは、六対の球体―――スターマーク。 そしてその中央には、蒼く輝くカラータイマー。 「兄さん……ゾフィー兄さん!!」 「ようやく会えたな……メビウス。」 ウルトラ兄弟を束ねる長兄―――ゾフィー。 予想していなかった、しかしこの上なく心強い増援を前にして、メビウスは思わず声を上げた。 ゾフィーはそのままバードンに蹴りかかり、その巨体を吹っ飛ばす。 その後、大きく首を振るい、己の頭で燃え盛っていた炎を消す。 どうやら先程火炎を受けた影響により、燃えてしまっていたらしい。 ゾフィーはなのはとメビウスへと振り向くと、掌をカラータイマーへと一度乗せた後、二人に向けた。 そこから、エメラルド色に輝く光が二人へと放たれる。 「あ……体が、楽に……!!」 なのはは、己の体が軽くなるのを感じた……毒が抜けたのだ。 それはメビウスも同様であり、そのカラータイマーは青色に回復している。 ゾフィーが、己のエネルギーを二人へと分け与えたのだ。 二人は立ち直り、そして構えを取った。 「メビウス、そして地球の者よ。 ここまで、よく頑張ったな……もう一息だ。 力を合わせて、バードンを倒すぞ!!」 「はい!!」 圧倒的不利かと思われていた形勢は、一気に逆転した。 ウルトラマンメビウス、高町なのは、ゾフィー。 今……三人の、反撃の狼煙が上がる。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/574.html
覚悟君が戻ってきた。 新暦0074年10月。 あの日の約束を、ぎりぎり果たしたその日に、や。 そうは言うても、わたしだけの力とちゃうねんけどな。 わたしかて、ヘタな謙遜をする程度の日々を送ってきたつもりはないねんけど、一人じゃ単なる小娘やんか。 聖王教会の…カリムの強力な後押しがあって、ほんっとに辛うじてこぎつけた結果やな。 完成した隊舎の執務室にやってきた覚悟君と向かい合ったら、 おっきくなった背に、いろいろ言うてやりたくなったわ。 けどな、うち、覚悟君の言葉、しっかり覚えてるねん。 せやからな…戦士に、敬礼や。 覚悟君も、わたしに敬礼してくれた。 「…………」 「…………」 結局、それだけやった。 そのまんま、三十秒くらいして。 「じゃあ、みんな…呼ぶな?」 「頼みます、八神二等陸佐殿」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第八話『対超鋼・機動六課』 「みんなそろったところで、状況を整理してみよか」 「うん、そうだね」 「行き違いがあったりしたら、困るもんね」 「了解した」 今、いるのは、わたしとなのはちゃん、フェイトちゃん。 うちの子らはガジェット退治の応援その他に駆り出されてて、来週までは戻ってこられへん。 リィンも今は、そっちについていってる。 覚悟君とすぐに会わせられないのが残念やけど… あ、ちなみに、他人行儀は即刻禁止したで。 覚悟君だけそんなことやったら、なのはちゃんやフェイトちゃんにも、遠回しにそれ、押しつけることになるねんな? …それにな。 『勘違いしたらあかんて。 わたしらを結びつけるのは上下関係やない。 おんなじ、願いや。 戦う理由や…違うか? そう思うから、戻ってきてくれたんやろ、覚悟君』 『…相違なし。 謝罪する』 まあ、三年前は嘱託魔導師待遇(魔法使えないのにヘンな話やけど)で、わたしらの仕事、手伝ってもらってたから、 管理局の組織に正式に組み込まれることを自分で選んだ手前、組織の仕組み、ないがしろにできん思うたんやろな。 でもそれは、中身をしっかり守ってくれれば、形なんかどうでもええねん。 なのはちゃんにフェイトちゃん、シグナムたちもそうしとるみたいにな。 「…まず、どうしてカリムの、聖王教会の後押しが強まったのか? これは覚悟君が詳しいはずやな」 「強化外骨格、雹(ひょう)の発見ゆえに!」 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、息を呑んだ。 わたしだって、カリムから聞いたときは、同じやった。 あんなことが、あった直後やったから… 「野生の火竜が丸呑みにしていたものを、おれが回収した」 「それってつまり、この世界に飛ばされてきたのは、覚悟くんだけじゃなくて…」 「呼ばれたのは、強化外骨格そのものであるかもしれぬ」 なのはちゃんに応える覚悟君の目つきは、鋭かった。 「強化外骨格に宿るは、理不尽に蹂躙されし魂なれば。 カリムの予言の一節に符合せし部分あり」 古い結晶と 無限の欲望が 集い交わる地 死せる王の元 聖地より彼の翼が蘇る 死者達が踊り 中つ大地の法の塔は空しく焼け落ち それを先駆けに 数多の海を守る法の船は砕け落ちる 「踊る死者達、これ強化外骨格の瞬殺無音を意味するならば… ミッドチルダに吹き荒れるは、大殺戮の嵐!」 「地上本部への…」 「強化外骨格を使った…」 「毒ガス攻撃!」 真っ昼間の晴天なのに、雷が轟音を立てて落ちてくるのを、わたしらは確かに聞いた。 本部からの事情聴取では知らぬ存ぜぬで突っ張り通したけど、 わたしは確かに知ってる。 瞬殺無音がなんなのか、零(ぜろ)から聞いて、知ってる。 十秒足らずで都市ひとつ根こそぎ鏖(みなごろ)す。 姿無く、音も無く、匂いもせず、ただ瞬間的にやってきて、あとは原型をとどめない…化学兵器、戦術神風(せんじゅつ かみかぜ)。 「強化外骨格は…零(ぜろ)は、悪用されるの?」 「断じて否。 下郎にその身を許す零(ぜろ)ではない! 雹(ひょう)もまた我が父、朧(おぼろ)の超鋼なれば、不仁を為すこと、決してありえぬ」 「お父さんの?」 重々しく頷いて、覚悟君は続ける。 「零(ぜろ)、雹(ひょう)がこちらに存在する以上…現人鬼(あらひとおに)の纏(まと)いたる霞(かすみ)もまた在ると考えるべき! 外道に堕ちくさった散(はらら)ならば、強化外骨格の力、罪なき人の抹殺にふるったとて、何ら不思議なし」 フェイトちゃんが、ちょっと痛々しそうに目をそらしとる。 お兄ちゃんのことを「鬼」って呼んで、討つべき悪としてにらみ続ける覚悟君や。 たとえ冷たくされたって、虐待されたって、 それでもお母さんのこと信じ続けたフェイトちゃんには、やりきれないものがあるかもしれへん。 「でも、それをやるのが散(はらら)さんて決まったわけやない」 「だが、そう考えねばならぬのだ、はやて」 「これ見いや」 ウインドウを起こして、映像を再生する。 百聞は一見にしかずやて。 「これは、玩具(ガジェット)」 「三週間前の、ヴィータの戦闘記録や」 その日、現れたガジェットは、たった五体。 せやけど、その分、特別製やった。 数でタカをくくった地上部隊三十人が、あっさり片付けられてもうた理由は、 ヴィータがグラーフアイゼンで殴りかかった瞬間に、すぐわかった。 「…これは、まさか!」 さすがの覚悟君の顔色も、これには変わって当然やな。 あれの意味を知らなかった、なのはちゃんとフェイトちゃんだって、同じ顔したんやもん。 「わかるか、展性チタンや。 展性チタンの装甲を持った、ガジェットや」 ブースターで噴射しながら正面からぶち砕く、ラケーテンハンマー。 あれをくらって、吹っ飛ばされておきながら、ガジェットは表面が一瞬へこんだだけで。 装甲表面全体をぷるんと震わせた思うたら、元通りの形になって、元気ハツラツでミサイルを撃ってきた。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)で魔力が消されてまう上に、 通った威力、衝撃もこんな風に散らされるんじゃ、苦戦するのも当たり前や。 最終的に、ひとつ破壊している間に、残り全部に逃げられて。 「…わかるか、これがどういう意味か、わかるか?」 「展性チタンは、強化外骨格の装甲にのみ用いられし素材」 「せや。 強化外骨格の技術を解析してる、何者かがいるっちゅうことや。 もっと、聞くで? これ、放っておいたら、この先どうなるか」 「瞬殺無音の暴露…」 「わたしは、もっとおそろしいこと考えとるねん」 正直、口に出すのもイヤな可能性やけど、 目をそむけるのは、絶対にあかんねや。 だから、言う。 「強化外骨格の、量産や」 覚悟君の息が、数秒間も止まったのを感じた。 なのはちゃんとフェイトちゃんには、あらかじめ伝えておいた、一番悪い予想。 もしも…もしも、色々とタガの外れた人が、それを使って何かやらかすのなら。 そこから描かれる未来図は、この世の、破滅や。 「覚悟君だけの問題とちゃうねんて。 もう、とっくの昔に。 せやからな、探そう? 一緒に…止めなきゃいけない人達を」 「…了解。 おれの拳ひとつでは、因果は届かぬと認識した」 「うん、ええ子や」 一人で背負い込もうとするんは、覚悟君の一番心配なところ。 何も、覚悟君は、人類最後の戦士やあらへん。 支え合って、わたしらは、もっと強うなれるんや。 「…で、次は、一体、どこでそんな技術を解析しとるのか、って話になるんやけど」 「言いにくいけど、一番最初に思いつくのは…」 「零(ぜろ)だね」 なのはちゃんの後を、フェイトちゃんが引き継いで、はっきり言うた。 「ロストロギアに匹敵するものなら、管理局で解析するのは当然だから…問題は、その後」 「管理局から悪漢どもへ情報の漏洩ありと?」 「そうだとしか思えない。 そうでなければ、別の強化外骨格を… 覚悟の言っていた、霞(かすみ)を持っていると考えるしかなくなる」 「であれば…散(はらら)か」 覚悟君の拳が、きりりと握られた。 考えるな、ちうても無理なんや。 それは多分、覚悟君にしか背負えないものやから。 外野から、とやかく言えることと違う。 違うんやけど、でも、一人で背負い込むのは反対やし。 もし、対決に立ち会うようなことがあったら、わたし…何をしてあげられるんかなあ? …あかん、あかん。 今考えることとちゃうで。 「散(はらら)さんより現実的な危険は、獅子心中の虫やで、覚悟君。 姿も形もない霞(かすみ)より、現にある零(ぜろ)や」 直接的な表現を避けつつ、覚悟君流にむずかしい言葉をまぜてみる。 我ながら上出来やな。 「覚悟君、言うてくれたやんか。 零(ぜろ)は征くべき場所に打って出たのだ、って」 「…うむ」 「じゃあ、管理局外部に漏れてる展性チタンの技術。 これは、零(ぜろ)が撒いたエサとちゃうか?」 「!!」 ふふん、目つき、変わったやんか。 せやせや、男の子はくさってちゃダメやて。 「そろそろわたしらが、零(ぜろ)の声に応える番やて」 「敵の技術、零(ぜろ)ではなく、霞(かすみ)に由来していた場合は?」 「もし、そうなら…零(ぜろ)を取り戻す、立派な大義名分やんか。 そのときは、零(ぜろ)と覚悟君の、全力全開であたる時や!」 一人で行かせるとは限らへんねんけどな。 わたし、策士やねん。 覚悟君、それに気づいてるのかいないのか、わからへんけど… 「はやて」 「ん?」 「命令を! 機動六課が葉隠覚悟に!」 こういうツボ、しっかり心得てるとこ、ホンットにニクイわ。 覚悟君の場合、完っ璧、これが天然やから、なおさらや。 あのシグナムでさえ、なんと古風な…とか言うて笑うんやで? でも、闘志がわく。 「違うで、覚悟君」 「違う?」 「古代遺物管理部、機動六課が正式の名前や。 せやけどもうひとつ、わたしらにだけ見える三文字がある。 わたしらの背負う役目と同じように」 思い切りもったいぶって、気を引いて、 そして、力いっぱいに、名乗る。 「『対超鋼』! 『対超鋼』機動六課(『たいちょうこう』 きどうろっか)や!」 「対超鋼、機動六課!」 「たとえ相手がロストロギアだろうと、強化外骨格だろうと、 わたしらは一番最初に立ち向かって、一番最後まで立っている。 機動六課は、そういう部隊や」 居住まいを正す。 八神はやて、上官モードや! 「葉隠覚悟陸曹」 「はっ」 「貴官は本日より機動六課中枢司令部、ロングアーチに所属。 わたし、八神二等陸佐の直属として、対超鋼戦術顧問を命じる!」 「対超鋼戦術顧問、拝命いたします!」 「うむっ」 覚悟君の敬礼に、わたしも敬礼。 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、敬礼。 一人前の仕事をするには、まだまだ時間がかかるねんけど、 生まれたばかりの機動六課は、今、確かに歩き出してる。 (グレアムおじさん…見てて、な) 空の彼方に、そっと、祈った。 「是非もなし」 なのはが指揮する『スターズ』分隊の配属候補、二人の話になってすぐ、 覚悟はそう言って、なのはの選択を全肯定した。 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。 私となのはみたいに、ずっと、二人でやってきたっていうコンビらしいけど。 「両名すでに、恐怖超えたる器なり。 錬磨おこたらねば一廉(いちれん)の戦士たるも夢ではなし」 「さすが…直接見てきた覚悟君はひと味違うね。 でも、びっくりしなかった?」 「何が」 「スバルちゃんのこと」 覚悟にとっては、この世界での全ての始まりだったはずの女の子。 火事の中、生命を賭けて助けたこの子が今、機動六課に名前を連ねようとしている。 少しだけ、黙ってから…覚悟は、うなずいた。 「できることなら、平和の中に生きてほしかった」 それを聞けて安心したよ、覚悟。 戦いだけで頭が埋まっているような男の子じゃないって、三年前から知ってはいるけどね。 覚悟のあの強さは、聞けば五歳のときから仕込まれてきたものだっていうから。 …私も、境遇としては似たようなものだった。 だから、三年前、聞いたんだ。 辛くなかったか、って。 そうしたら。 『おれを宝と呼んでくれた父上の顔は、辛き日々を乗り越えし成果。 あの顔を見たくて、おれは頑張り続けていたのだと、あの時に知ったのだ。 おれほどの果報者、そうはおるまい』 私がついに手に入れられなかったものを、覚悟は手にいれることができて。 でも、一緒に辛いことを乗り越えてきたはずのお兄ちゃんに、そのお父さんが殺されて。 忘れろだなんて、言えるわけがない。 でも…それでも、私は、思うんだ。 大好きだったお兄ちゃんのこと、悪とか、殺すとか、そんな風に思い続けるなんて、哀しすぎる。 散(はらら)さんがどういう人か、まだ私は知らないけれど、戦いになるようなことは、できれば止めたい。 だけど、ね。 「だが、戦場にて勝てぬ大敵を前に一歩も引かなかった事実。 決意を身をもって示す者を前にして、おれに何が否定できよう」 小さく笑うなのはみたいに、私の意見も、覚悟と同じ。 『覚悟』に余計な口ははさめないんだ。 今は、何も言ってあげられそうにない。 「…採用、決定だね」 「二人の教練、くれぐれも抜かりなきよう!」 「何を言ってるのかな? 覚悟くんも教官になるんだけどなあ」 「む…」 「覚悟くんぬきじゃ、意味ないよ? 対超鋼戦術顧問さん?」 「…了解、未熟ながら死力をつくそう」 「うん、いいお返事。 じゃあ、まずはわたしに教えてね」 なのはが席を立って、覚悟もそれに続く。 三年ぶりの、話仕合(はなしあい)に行くんだね。 最後のあれは、確か… 『後の先を狙い続けて膠着状態に陥った場合、いかに敵を崩すか?』でもめたときだったっけ。 「零(ぜろ)は無くても、大丈夫?」 「あなどるなよ! 当方にカリムより賜(たまわ)りし爆芯『富嶽(ふがく)』あり!」 「そうこなくっちゃ! …フェイトちゃん、どうする?」 いきなり話をふられて、今までずっとぼんやりしてた私はちょっと反応が遅れたけど。 「うん、行くよ」 バルディッシュを握り締めて、私も立つ。 私の率いる『ライトニング』分隊、二人の資料をファイルにしまって。 エリオ・モンディアル。 キャロ・ル・ルシエ。 私の養子、二人。 『真に我が子を思っての決断なれば良し』 覚悟は、そうとしか言わなかった。 …言われるまでも、ないよ! レリック関係だけじゃなくて、私達が追うのは今や、強化外骨格に、謎の生物兵器人間… 死の危険が飛躍的に高まってきたのは、肌で感じる今日この頃だから。 そのために、私がいる。 なのはがいる。 むざむざ死ににいかせるような教練なんか、絶対にしない。 私も、エリオとキャロには、もっと安全に生きてほしかったけど、 二人の選んだ道には、きっとゆずれないものがあるはずだから。 だから、道半ばで倒れたりしないように、最後まで戦える力を、しっかりあげるんだ。 ―――『対超鋼』機動六課、動き出す日は、すぐ近く。 前へ 目次へ 次へ